第36話 天才の覚醒

 目が覚めた。朝か。ここは、あまり馴染みがない天井だ。匂いは、保健室だろうか。

違う!!どうなった!?


「あ、ハッシー?起きた?」

健二郎か。ずいぶん落ち着いている。とりあえず慌てる状況ではなさそうだ。僕は安心して深くため息をついた。

僕は気を失ってしまったらしい。別に起きた瞬間、誰かに泣きついて欲しかったわけではなかったが、あのシチュエーションに憧れはあった。


「どうなった?」

「どうなるんだろうね、これ」


起き上がって周りを確認する。


 無血開城と言いながらも、どうやら僕だけは血を流していたらしい。きっちりと僕の頭と手首に包帯が巻かれている。窓から入った時にガラスで切ったんだろう。どうりで頭が痛かったわけだ。内からじゃなくて、外からだったとは。


さて、あの後どうなったんだろう。

ここには全員いるな。


「国尾先生に協力してもらって、」


国尾先生と二人の林田がはっせんに事情を話しているようだ。木村と須藤は出入り口を固めている。目覚めた僕に小さく手を振っている。

僕が起きるまで待ってくれてもよかったのに。

ま、仕方ないか。話はどこまで進んでいるんだろうか。


「とりあえず詳しい事情は、校長と親御さんとゆっくり話しましょう。今日はとりあえず、」


あれ?解散の流れ?


「先生!」

「お、橋本、大丈夫か?」

「はい、ちょっとズキズキしますが」

「家は近いんだったか?親御さんに連絡とれるか?」

「はい、そうなんですけど、どういう状況ですか?」

「うん、とりあえず国尾先生が虐待を受けていた林田さんを、学校で保護していたという話だ」

ん?どういう話だ?警察とかではないのか?


「私も出過ぎた真似をしたというか、二人があまりにかわいそうで、」

泣いている。くにおちゃんだけが泣いている。

なんか、すっきりしない。


 とりあえず暴風域に入っているということで、この日は早々に解散することになった。はっせんのご厚意でみんなを愛車のアルファードで家まで送ってくれることになった。車中は車の自慢ばっかりで、僕はほとんど何も考えられず、いつの間にか家の前に着いていた。はっせんが母さんに事情を話し、母さんもミクをうちで保護している事情を話していた。このままでは何かがまずいと思い、何とか健二郎だけは腕を絡めて引き留めた。


母さんは、まー、かなり怒っている。その内に少しずつ意識がはっきりしてきた。


「ごめん、母さん、頭フラフラするから、後で」僕はそう言って、家に入った。


 僕の家には健二郎、僕、そして林田姉妹がいる。なぜかみんなが横並びにリビングのソファーに座っている。このリビングには不釣り合いのサイズだが、ちょうど四人が収まっていい感じになっていた。


 かなり風が強いのだろう。外からのぶおーっという風が窓の隙間に吹き込んでひゅーという弱々しい音に変換されている。

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