第31話 天才の考察4
健二郎にメールをした。僕から連絡があると思って待機してくれていたらしい。返信が早くて助かる。
「読書感想文の課題図書って誰が決める?」
「国語の宿題だからはっせんじゃないか?」
「チェンジリングも?」
「たぶん」
「健二郎はなんでチェンジリング選んだ?」
「作者と名前が似てたから」
「だよな。あと、」
その後、いくつか調べ物を頼んだ。やっぱり健二郎は名前が似てたから選んだんだ。学校内なら先生の好みでも決まるんだろう。しかし、はっせんはそんなことするんだろうか。あくまで予想だけど、あんな真面目な先生が自分の好みを入れてきたりしないと思う。どう考えてもあんな内容の本を課題図書に入れるのは変だ。じゃあ誰かに追加されたのか?確認する方法はあるないか。木村か須藤に聞けば吹奏楽部の知り合いぐらいいそうだし、そこから先生につながるかもしれない。お盆だろうが、なんだろうが、こっちは忙しいんだ。躊躇はしていられない。
須藤と木村を経由してはっせんの電話番号を手に入れた。いくら国語の担当とは言え、いきなり電話するのは、気が引ける。僕のことを知らないということはないだろうが、僕は大人への電話が苦手だ。ただ課題図書を決めた理由をお盆に聞いてくるなんて怪しすぎる。何か口実があれば良いのだけど。
そう言えば、準備室を調べるなら協力してくれそうな先生を考えないといけなかた。その点、はっせんはどうだろう。熱血マーチングバンドの指揮者で吹奏楽部の顧問だから、音楽準備室には入れてくれそうな気がする。国語の先生だから図書室の管理もしてそうだし。変に正義感が強そうだから、逆に信頼できる。そのまま言っても追い返されそうだけど、都合の悪そうな部分は適当にごまかせばなんとかなりそうだ。この際むしろ怪しまれた方が先生も行動を起こしやすいだろう。先生の協力というのはあくまで保険のようなものだから、なくても最悪、なんとかなるとは思うが。
僕の中であの盆踊りの日は、トラウマのようになっている。なんの計画もなく林田の家に乗り込んだ挙句、お母さんを入院させ、色んな人を巻き込み、辛い思いをさせた。もうあんな、みっともないことはしたくない。だから、この保険は必要なんだ。
僕はある程度セリフを考えた上で、覚悟を決めて、はっせんに電話をかけようと発信ボタンに指をかけた。
(着信音♪)
かける前に着信が鳴った。ただでさえ弾んでいた心臓が口から飛び出そうになった。木村だった。
「ハッシー、もしかしてまたなんか、変なこと考えてる?」
「変なことってなんだよ」
「はっせんの携番なんか、どうすんの?」
「うん、まあ、ちょっと」
うまい言い訳が見つからなかった。
「言ったじゃん。できることがあったら言ってって」
「だから、はっせんの携番を」
「ちがうじゃん」
「本当の助けになるっていうのはさー、一緒に立ち向かうとか、そういうことなんだよ。たぶん。ハッシーはさー、そういうとこが冷たいんだよ。結局、見下してんでしょ?」
「いや、そんなこと、」
「宮本もそう思ってるかもね」
木村は最後にもう一度「たぶん」といって「じゃあ」とも言わずに電話を切った。僕は、何も言い返せなかった。
健二郎が頼もしくなって、色々調べてくれるようになったけど、僕は一緒に並んで走るような、それこそ、横並びで走って、ボールと体を預けるような、完全な信頼を誰にも寄せていなかったんだと気づいた。全く前回の反省を活かせていない。これじゃ稲垣キャプテンのようにはなれっこない。
僕は深呼吸をした。深く息を吸い、自分の中の悪い部分を吐き出すように。
よし、作戦を立て直そう。何かメモできる紙はないかな?
あれ?これは?
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