第29話 天才の考察2
木村と須藤を見送り、健二郎と一緒に資料を読み進めた。
健二郎に見せてもらったものは読んでいて、とても辛かった。
「死」「虐待」「殺」
という文字を見るたびに背中がゾワっとした。
確かに今回のことと照らし合わせると、共通する部分や、つながりそうなことがいくつかあった。全然違うところもあるが、ヨーロッパの伝承が日本の学校になると、こういうこともあるかもしれないという納得感があった。もしかして、ミクが入ったミサの体が虐待を受けていた理由もこれに関係しているんだろうか。そう考えると、林田のお母さんはミクがいなくなった日、正確にはミクが中に入ったミサだけが帰ってきた日、帰ってきたミクに「ミクは一緒じゃないの」って言った。だから見た目は完全にミサの方だったんだ。それから昨日の晩まで警察にも届けず生活し続けたっていうのか?届けていて学校関係者の生徒や保護者に知らされず、事件にもなっていないということはあり得るんだろうか。もちろん虐待をする親の気持ちなんか理解できない、したくもない。しかし、もし、林田のお母さんがチェンジリングの話を知っていて信じてしまうような人だったらどうだろう。
「実はね、もうひとつあって、最近同じ名前の映画がやってるんだ」
健二郎は映画のチラシを僕に渡した。
「え?今?」
頭がズキズキして、心臓が中からゆっくりなでられているような気持ち悪さを感じた。本当に吐きそうになって、僕は頭を抱えてしまった。もう何も考えたくないと思った。
ダメだ、自分にできることをやれ!考えろ!
僕の中の稲垣キャプテンが僕を勇気づけてくれた。僕は目の前の紙パックのリンゴジュースをコップも使わず飲み干して、深呼吸をした。
考えろ。いくらなんでもタイミングが良すぎないだろうか。僕がチェンジリングについて知ったのは、ついさっきだっていうのに、映画になるほど有名な話なのか?僕が知らなかっただけで、映画になっているなら林田のお母さんがチェンジリングについて知っていてもおかしくない。読書感想文の課題図書になるような本もあるわけだし。そもそもこんな重苦しいテーマの本を誰が読みたがるんだろうか。僕は探偵ミステリーは好きだけど、犯罪サスペンスみたいな作品は嫌いなんだ。
さらに、この資料によると、知的障害みたいな障害のある子供は取り替え子だと思われたとかそんなことが書いてある。だったらなんだ?ミクが知的障害を持っていて、偽物だとでも思われたのか?確かに、ミクは多少言葉をたどたどしくしゃべるし、勉強は得意じゃないって言ってた。だからなんなんだよ。二人の姉妹のうち一人優秀な方がいれば良いとでも言うのか?そもそも一人でよかったと?そうだとしたら本当にクソ野郎だ。そんなダブったカードの汚い方を捨てるみたいなこと。
待てよ。
「健二郎、林田の誕生日しってるか?」
「しらない、早生まれだった気はするけど」
「一月から三月か?」
僕はすぐに木村に林田の誕生日をメールで確認した。
その返信を見て、すぐには理解できなかったが、またしても自分の暗い考えに嫌気がさした。
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