第20話 天才と停留所

 「よし、行こう」とは言ったものの、大勢が押しかけてきては怪しまれると思ったので、先頭は女子二人に任せ、男子二人は少し距離を空けて待機することにした。

 木村は特に何のためらいもなくインターフォンを押した。家の扉の前に近づいたら自動で灯りがつくタイプの玄関で、健二郎はいちいち「ひっ!」と驚いていた。


少し間があって、家の中の灯りがつき、アイツが出てきた。

扉を開け切った瞬間木村がアイツに飛びついた。

「ど、どうしたの?ユキちゃん?」

「ごめん、ミサ、うち・・・」

須藤も少し遅れてぬるっとその輪に入った。

アイツは戸惑っていたが、一瞬にして落ち着いて話ができる状況になるまで待つモードに切り替えたようだった。その間に僕らも見つかり、なぜかぎこちない会釈をしてしまった。アイツは二人と抱き合いながら、家の中を一瞬確認し、右手の人差し指で僕らのより向こうを指し示した。近くにバス停があり、そこにベンチがあった。

 

 ベンチに移動した。ここは誰から話し出すのが良いだろうか。僕から行きたいとは思っているが、木村がアイツに抱きついたまま、顔を上げない。

座り順はアイツ、木村、須藤、僕、健二郎。

木村が体を起こしたら「ヨーイドン」な感じはするのだが、「位置について」の様子もないので、どこまで作戦を考える時間があるのかもわからず、僕らは宙ぶらりんになっている。


(パチン!)


蚊が気になってきたようで、我慢できず動き出したのは須藤だった。今のはドンということで、僕とアイツの心が通じ合った。

「ごめん、俺たち、急に」

「ううん」

「えっと、今日、盆踊りで、みんな一緒で、林田こないなーって」

「うん」

手ごたえがない。アイツはあくまで様子見の姿勢だ。木村が体を起こした。どうやら僕から話し始めるまであの体勢を貫くつもりだったらしい。なんてヤツだ。しかし、止めても来ないので、このまま妹の話にいかに自然に持っていけるかということを期待されていると信じて進む。


「小学校の頃は、ほら、よく一緒に来てたなーって」

様子を見つつ言葉を選ぶ。

「名前、なんだったけ、妹の」


そこまで言ってアイツが急に立ち上がった。


「橋本くん!」

僕たちは圧倒されてベンチに座ったままアイツを見上げている。

いきなり、女の人の声が聞こえた。


「ミクちゃん?何してるの!?」

「あ、ママ、おかえりなさい」

「あら、ミサちゃんのお友達?こんな暗いところでお話なんて」

「違うのママ、みんな盆踊りの帰りで、たまたま寄ってくれて」

「こんばんは」

「あらそう。みんな、親御さん心配させちゃダメよ」


は?待て。今、なんて言った?


おかしいと思っていた。僕たちがアイツの家の前についた時、アイツの家の灯りがついていなかった。アイツが出てくる時にやっと家の中の電気がついた。あの家は平屋でそんなに大きいとは言えないのに、奥に電気があったとしてもあのサイズにしては家の中が暗すぎる。あんな暗い家にずっと人がいたと思うと、うまく言えないが、普通じゃない。


「ちょっと、お母さん」



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