第18話 天才とかっこいい人

 かっこいいことをしようと決めてから僕は、かっこいい人とはどんな人か考えることにした。僕が今までかっこいいと思っていたのは、イケメンだったり、背が高かったり、何かで優勝したり、頭が良かったりする人だった。でも、あのラグビー漫画のキャプテン、稲垣さんはそんなんじゃなくて、好きなことに一生懸命で、恩を忘れない人で、人をよく見守って、励まして、人の話をよく聞く人だと思う。


 それから部活ではできるだけ多くの人と話をするようになった。あのラグビー部はみんな仲が良かった。どんな人とでも仲良くできる人はカッコいいと思うし、他の人が気づかないようなところに気が付く人もかっこいい。主人公が悩んでそうだったら話を聞いてあげる。それに気づくようになるためには普段からみんなのことを知らないといけないし、何かあった時に頼られるような人になることがキャプテンの条件になると思った。もちろん、キャプテンになりたいわけではない。ただ、稲垣キャプテンのような人になりたい。

 このかっこよくなろうキャンペーンは少しずつ進み、今までほとんど喋ったことがなかった部活の先輩や同級生や後輩と仲良くなり、アドレス帳の登録件数も増えていった。

 でもなぜか、アイツには他の人と同じように話しかけたり、遊びに誘ったりできなかった。以前よりは格段に目が合う回数は増えたけど、まだ早いと思ってしまう。この頃にはギャフンと言わせたいとは思っていないけれど、アイツと話すのは何かよっぽどの理由がないといけない気がしていた。


 夏休みはもうすぐ半分を過ぎようとしていた。キャンペーンのせいで僕の夏休みの宿題は全然終わっていない。


五日ぶりに健二郎を遊びに誘った。遊びに行くお金はないので、九キロぐらい離れているショッピングモールまで自転車でダラダラ行くだけだ。


「健二郎って、どんな人がかっこいいと思う?」

「え?俳優?」

「誰でもいいよ、俳優でも身近な人でも」

「やっぱりジャッキーかなー。」

「やっぱそうだよなー」

「でも、身近な人ならハッシーはかっこいいと思う」

「そんなジャッキーによせなくていいんだよ」

「ハッシー・チェンだね」

「ダサ」

二人でお腹の底から笑い合った。


「でもずっとだよ。小学校の頃からハッシーはずっとかっこいいよ。僕はずっとハッシーみたいになりたいなーって思ってたよ」

「嘘つけ」


 健二郎は「かっこよくなろうキャンペーン」のことを知っているから、僕に気を使ってくれているのはありがたいけど、正直、気持ち悪い。でも、健二郎は本当にすごいヤツだ。いつでも僕が欲しい言葉をくれる。結構遠回りをしたけど、今の僕たちなら、アイツと準備室のことを解決できるんじゃないかと思った。


「盆踊り十五日だよね?」

「そうそう」

「じゃあまたその時に」

「おっけー。バイバーイ」

「バイバーイ」


 八月一五日、近くの公園で盆踊りがある。

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