第12話 天才と悪夢
木村への調査でアイツがいじめられていないことがわかった。百パーセントないとは言えないかもしれないが、木村がいれば大丈夫だと思った。
僕はようやくバスタオルをハンガーにかけていつものところに吊るし、寝間着を着て、スポドリを取りに行った。僕の短い髪は変な形で乾いていた。
僕は定位置であるリビングの窓際に座り、斜めからテレビを眺めていた。昔からやってそうな古い刑事ドラマをやっている。今日がクイズ番組の日じゃなくてよかった。もしクイズ番組がやっていたら僕はどんなことをしてでもチャンネルを死守しようとして、考えるどころではなかった。今日は僕も刑事さんになりきって推理をしよう。
どこまで考えたか。アイツがいじめられていないということがわかった。じゃあ母さんは何を見てアイツがいじめられてるかもしれないと思ったんだろう?ここからだ。
普通に部活の時に転んだケガだろうか。そう決めてしまうのは一番簡単だけど、正直なところ、最近アイツが部活中に派手に転んだり、ハードルに脚をぶつけているのを見ていない気がする。ぶつけるとしても、抜き足の先の方だから、パッとみてわかるようなケガにはならない。ケガを見てじゃないとすれば、何だろう?
母さんは夜のパートに行ってしまって、帰ってくるのは夜遅い。この場にいたとしてもあの感じで黙った母さんにあの話をもう一回できる自信がない。父さんはいつものように台所に近いご飯を食べる方のテーブルでテレビと会話しながら、缶チューハイを片手に、柿の種を食べている。兄ちゃんはお風呂にも入らずソファーに寝転がって漫画を読んでいる。とてもじゃないけど、この場で同級生の女子の話なんかできない。
母さんとアイツの会話を思い出そう。
「うちの子、最近変なことしてない?」
『ちょうど今日放送で呼び出されてましたよ』
「何したのかしら?」
『図書室で大きい音出してたみたいですよ。何してたんでしょうね?』
『でも、怒らないであげてくださいね』
僕って普段から変なことしてると思われているんだろうか。変なことしてても怒らないであげてくださいって、母さんはよっぽど他人に迷惑をかけない限り、僕を怒ったりはしない。
待てよ。
家なのか?だとするとそれはいじめじゃない。
僕はもう一度ゾッとした。
先生と仲良くできるヤツが僕の母さんに、「いじめられているヤツ」と思わせる態度を取ったんだ。怯えてるとか、目を逸らすとか。アイツのお母さんって、もしかしてそうなのか?
僕はその後何も考えず、すぐ布団を敷いて、薄いタオルケットにもぐりこんだ。父さんが、「寝るのか?」と聞いてきたけど、聞こえていないふりをした。
その後も頑張って何も考えないように朝を待った。
今日もあの夢を見た。それは僕にとって、もはや悪夢だった。
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