第13話 天才と友人K
期末テスト三日前になった。
僕はリビングのテーブルに数学のワークを広げて扇風機を独占しながら、部屋の大きさとは不釣り合いのソファーに寝転んでいる。この時間は普段見ないドラマの再放送がダラダラと流れている。
この期間になれば誰も誰かの勉強の邪魔をしてはいけない。僕にとっては提出物を終わらせるだけの期間なのだけれど、フェアプレイの精神は忘れてはいけないと思うので、アイツに何か問い詰めたり、健二郎とあの日のことについて話し合うことはしない。メールの後、完全に返信を忘れてブッチしてしまったことで木村にはかなり問い詰められたが、そのタイミングでアイツにはこのことは内緒にしておいてくれと言えたので、自分でもファインプレーだったと思う。たとえアイツが僕が想像している中で一番悪い状態だとしても、アイツが学校に来ている限り、僕にできることが思いつかない。健二郎ともあの図書室の一件以来、なんとなく気まずくなって、会話が減っている。タイミングさえあれば、僕の最悪のシナリオを健二郎に否定してもらいたいのに。
そういえば、健二郎と仲良くなったのは、いつからだろう。
小学校では男子は早く学校に来てグラウンドでドッヂボールをするのが当たり前だった。誰を誘うでもなく、誰に誘われるでもなく、自然と集まって学年の男子ほとんど全員でドッヂが始まる。僕はいかにボールを避けるかに一生懸命だったから、決してドッヂが得意なわけではなかったけど、あの時はその集まりに行くことが全てだった。だから毎朝早めに家を出たし、教室においてあるボールを進んで取りに行った。そこに健二郎もいつの間にか入っていた。学年が上がるごとにその集まりはキックベースになったり、バスケになったり、変わっていったが、いつのまにか、徐々に、自然に参加者が減っていった。
僕と健二郎は最後の二人だった。最初から約束なんてなかったんだから、別に誰かに約束を破られたわけでも、仲間はずれにされたわけでもなく、ただ、その日二人になった。その日は二人とも球技がそんなに得意でもないのにいつもの続きで、校庭のバスケコートでワン・オン・ワンをした。ヘタクソなワン・オン・ワンは僕が圧勝だった。それでも健二郎は笑っていた。
よく考えれば、僕と健二郎は小学校で同じクラスになったことはなかった。中学に入ってから初めて同じクラスになり、割と席が近いというだけで一緒にお昼を食べるようになったり、お互いの家に遊びに行ったりするようになった。僕が健二郎と一緒にいるのは、まだ小学校の朝の集まりの続きをしているだけなのかもしれない。だから僕は健二郎がどんなヤツかということは誰よりもわかっているつもりだけど、好きでも嫌いでもないし、良いところがあるから一緒にいるわけでもない。これは多分、健二郎も同じだと思う。一緒にいる理由は、ただ一緒にいたからなんだと思う。健二郎は中学でバスケ部に入った。
(バタン!)
「ただいま!」
ちかねちゃんが小学校から帰ってきた。僕はうとうとしていて、もう少しでそのまま眠ってしまうところだった。
「ゆう兄ちゃん、ただいまー!、いってきまーす!」
「遊びに行くのか?」
「うん!公園!」
一眠りするか。
ーーーーーーーーーーーー
「橋本には、うちの秘密、いつバレてもおかしくないと思ってたよ。でも、ちょっと遅かったかな」
アイツを追いかけて走ってきた木舟神社の前、神社の大きな木の葉っぱの隙間からわずかに月明かりが差している。
正直、まだ何のことかわからない。でも、アイツはバレたと思っている感じの変な言い方だ。
きっと一番の問題は、この時点で本当は僕が分かっていなければいけなかったアイツの秘密を見抜けなかったっていうことだ。とりあえず時間を稼がないと。
「遅かった?なんで遅いんだ?」
「わかってるくせに」
わからない。この後どうなる?なんていえば良い?僕だってアイツの秘密をいくつか知っているつもりだけど、何か僕の知らないもっと大きな秘密があったのか。しかも、この言い方は、なんだろう。嫌な予感がする。何かが終わる時の感じだ。
やっぱり、もっと大きい秘密があるのか。
周りの景色が段々ゆがんできた。ぐにゃっとなってアイツの後ろ姿だけがぼんやり見えている。
「ちょっと待てよ。わかってるけど、遅いなんて決めつけるのが、わからないんだよ」
「ううん、大丈夫。橋本なら絶対わかるんだよ。だって橋本は…」
「え?おい、最後なんて?」
アイツはそれ以上何も言わずにそのまま崩れていく景色の中に走って行った。
ーーーーーーーーーーーー
またこの夢だ。一時間ぐらい寝てたみたいだ。
早く数学だけでも終わらせよう。
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