第14話 天才と期末テスト
提出物があっさり終わってしまった。
正直、アイツや準備室のことについてはテストが終わるまでは深く考えたくなかったから、できるだけ提出物は時間をかけてやったつもりだったのに、いつの間にか終わってしまっていた。これはやっぱり考えろということなんだろうか。
確かに気になることは気になる。考えないようにしようと思ってもあの日の図書室の光景が頭から離れない。僕一人で準備室の調査をしても良いのだけど、これ以上テスト前に、先生を怒らせるのは危険だと思う。とはいっても兄ちゃんのテストがある限り、これ以上テスト勉強をする気にはならないし、誰かを誘って遊びに行くような期間ではない。
僕は小学校から帰るなり、銀行強盗をした『マスク』の主人公みたいに、遊びに飛び出したちかねちゃんがうらやましくなった。
今の僕が家から飛び出したら太陽の光と暑さで一瞬にしてカピカピに干からびてしまうに違いない。それこそつける前のマスクみたいに。
テストが終わったら夏休みだ。このまま何となくテストが終わって夏休みに入ったら部活のために学校に行っても、校舎には近づかなくなる。というより、入れなくなるかもしれない。いや、その頃にはもうどうでも良くなってるかもしれない。冷静になって考えれば最近起きた出来事の全部がはっきりしないのはまずいし、ほっておけないはずだけど、この部活がなくてダラダラした生活が僕の全てにおけるやる気を奪っている感じがする。
期末テストが終わってから考えよう。
僕はとりあえず今回だけは、みんなと同じように期末テストに囚われてあげることにした。
期末一日目、今日は数学・国語・美術の三教科だ。
「健二郎、おはよう。自信満々?」
「おはよー。ちょっと無理かも」
「いつもそんなこと言って、どうせ今回も八〇点ぐらいとるんだろ?」
「いや、わかんないよ」
僕は健二郎にテストの順位で勝ったことがない。社会みたいなただ覚えるだけの科目で勝つことはあるけれど、総合点ではまず勝てたことがない。「勉強に取り組む姿勢」を考えれば当然のことなのだが。この煽りはそんな健二郎とのお決まりのやりとりである。健二郎が思ったよりもいつも通り返してくれてホッとした。どうやら健二郎は僕が思っているほどの気まずさを感じていなかったみたいだ。
一つ後ろの席の健二郎越しに、アイツの姿を見た。アイツは自分の席に座り、頬杖をついて窓の外を眺めていた。窓から吹き抜ける風と天井の扇風機からの風でセミロングの髪が色んな方向にふんわり漂っている。
そこに須藤と木村が最後の悪あがきをしようとアイツに駆け寄って声をかけたので、僕は素早く目を逸らした。
一発目から数学か。僕は数学があまり得意ではない。そもそも、時間が足りない。最後の問題までたどり着いたことがない。結局焦って計算間違いをしてしまう。解き方はわかるのに正解しない。好きか嫌いかで言えば好きなのに、得意ではないから面と向かって好きだとは言えない。
試験監督の先生が教室に入ってきて、名前の順に座るように呼びかけた。ヨネピーだ。分厚いテスト用紙の束をうちわ代わりにしている。背は低いのに手はでかいサッカー部の顧問。今回も良い点はとれそうにない。
僕の心配はそれだけではない。名前の順に座るということは僕の真後ろにアイツが座るということだ。これから四日間は僕が後ろを向くという行為が制限された。
そんな僕の根拠のない悪い予感は見事に外れてしまう。
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