第15話 天才とテスト返却
とんでもないことが起こった。
数学の期末テストが百点満点だった。ありえない。でも、僕の名前だし、僕の字っぽいが、こんなはずはない。だって僕は最後の問題までたどり着かなかったんだ。なのに、この回答用紙は最後まできっちり解いている。ご丁寧に途中式まで綺麗に書いている。
ありえない。
絶対にありえない。
ありえないけど、僕じゃないと証明するものがない。だから僕のじゃないとも言えない。カンニングをしたと思われるだろうか。いつも六〇点とかそれぐらいしか取ってないのに、急に百点なんて本当にありえない。気持ち悪い、何が起こっているんだ。
「はーい、今回の学年最高点は、満点が一人出ましたー。このクラスでーす」
教室がザワザワしている。セミと一緒に大合唱だ。徳田好子が嬉しそうにこちらを見ている。やめろ、バレるじゃないか。よくできましたじゃないんだよ。プライベートはどうした?それともカンニングを疑っているのか?そうだ、僕が百点とれるわけないんだ。
こういう時はどうしたらいい?
照れたフリをしていればいいのか?
アイツはいつもどうしてる?
あれ、アイツは満点じゃないのか?
僕に満点が取れてアイツに満点が取れないわけないだろ?
もしかして、これはアイツのテストなんじゃないか?
あまりの理解不能な状況にたくさんの疑問が頭の中を駆け巡っている。健二郎は有名人を見つけたみたいに目を輝かせているし、何人かは気づいて、僕のテストをのぞき込んでくる。僕はその度、意味もわからず「しーー」と口封じをする。
確かに今回はいつもより真面目に提出物をやったし、なんとなく色んなことで頭がいっぱいだったから、無意識の内に問題を解いていたのかもしれない。背中に刃物を突きつけられたような地獄の四日間を切り抜けたご褒美だろうか。普通そんなことはありえないが、ここまで確かな証拠を見せられると本当に僕が満点をとったんじゃないかと思えてくる。本当にそうだったら、健二郎どころか、公式にアイツに勝ったことにはなる。
今アイツはどんな表情をしているんだろう。
悔しい顔をしているだろうか?いつものように微笑んでいるだろうか?アイツの悔しい顔を見たことがないから想像がつかない。アイツはどんな顔をして泣くんだろう。振り返ってアイツの表情を見てやりたい。くそ。もう答え合わせが始まっている。ここで後ろを見ていることがバレたら好子に嫌味を言われそうだ。
自分が百点をとったことより、アイツの負け顔を想像することに対する興奮が徐々に押し寄せてきて、体が熱くなってきた。
ベタベタしないタイプの汗が止まらない。
僕はどうかしてしまったらしい。
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