第16話 天才の終業式
今日は一学期終業式、朝のホームルームで期末テストの成績表が配られた。
数日前に僕の数学のテストに起こった出来事を皮切りに僕の今回のテストの成績は過去最高のものになった。学年で八位という嘘のような成績だった。ちなみに数学以外の科目も思ったより点数は高かったが、数学の時のような変な感じはなかった。健二郎は一七位といつも通り二〇位前後だったので、テストの難易度が異常だったということではないらしい。
アイツの順位は確認するまでもなく一位なのだろうが、数学だけは確実に僕が勝っている。アイツのギャフンという表情は見られていないが、今回の敗北はアイツの心に深く刻まれたと思う。期末テストの順位が印刷された紙の後は、終業式をはさんで通知表が配られる。
終業式の後、僕は本当に解かなければならない問題を後回しにしてでも、この勝利の余韻と、いつもより輝かしい数字が並ぶ通知表を味わっていた。
終業式後の教室では通知表の話題で持ちきりである。普段から真面目な健二郎には僅差で勝利し、勝負を挑んできたものは全員蹴散らした。やっぱり、期末テストの結果がかなり反映されたようだ。
まさに今回ばかりは向かうところ敵なしという感じだった。
こうなるとやっぱりアイツの通知表が気になる。
テストを受けていた四日間のようにアイツの席が真後ろならどんなによかっただろうか。
自分の通知表を眺めるふりをして、バレないように横目でアイツの方を見た。
驚きの光景だった。アイツの個人情報の塊であり、この一学期の全てであるはずの通知表を無防備にも机に開いた状態で置いている。しかもアイツはいつものように窓の外に目を向けている。これが絶対的勝者の余裕と言わんばかりである。今この時点で中学生が誰にも見られたくないものナンバーワンの厚紙が、人に見せて恥ずかしいものは一つもないと言わんばかりに、むしろ命知らずを遠ざけるバリアのように機能している。
僕は助かったと思った。もう少しで小舟で戦艦に突っ込んでいくところだった。一瞬、なんて嫌味なんだと思ったが、アイツのことだから、そう思われてでも、僕のような無謀な挑戦者をがっかりさせないための気遣いなのかもしれないと思い直した。なんてヤツだ。いよいよ隙がない。
放課後の部活の最中、僕は他の人より多い宿題をどう終わらせるか考えなければいけない。確かにアイツを問い詰めれば、すぐに色んなことへの答えが出るのかもしれない。しかし、そう言うわけにはいかない。他の宿題は答えを見てもいいかもしれないが、この宿題だけは『夏のわくわくワーク』のように事前に答えをもらっていないし、読書感想文のように文字数だけ埋めればいいというものでもない。途中式まで含めた綺麗な答えを出さないと認められないような気がしている。とりあえず部活が終わったら、これからの、夏休みの作戦を考えよう。
明日から夏休みだ。
僕は半袖焼けをなくすために肩まで袖をまくった。
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