第9話 天才の疑問

 とりあえず健二郎とは、今日のことは一旦忘れて期末テストに集中しようということになった。

 部活がなくてまだまだ明るい時間帯、いつもなら汗がダラダラ流れているのに、今日ばかりは体の奥の方がひんやりしている。通ってた小学校の近くの歩道橋の前で健二郎とバイバイをして、僕は家に向かっていつもより少しゆっくり歩き出した。


 一番気になるのは図書準備室にいた人の正体だけど、それについては結局現場を見ないことには何もわかりそうにないので、まずは先生に通報した犯人について先に考えることにした。


 そもそも、何で先生にバレたんだ?誰がチクった?あのドアが閉まる音の後、図書室から出て僕たちに接触せずに職員室の先生に僕たちのことを話して放送させたのか?職員室への最短距離は肩車をしていた僕らの後ろを通って中階段を一階まで降り、渡り廊下を通ってもう一つの校舎に行かないといけない。だとしたら早すぎないか?それだけ肩車に夢中になっていただろうか。なんかこの違和感、前にもあった気がする。どうしてもアイツがちらつく。


 ダメだ。今日は何か考えるたびにしんどくなる。


 空はいつの間にか曇っていて、夕方の風で街路樹がザワザワしていた。


 一旦、容疑者を考えよう。できるだけアイツのことを考えずに。そのために僕たちのあの時の行動から振り返ることにした。

 放課後、健二郎と図書室に向かった。この時特に注意していなかったから、誰かに尾行されていてもわからない。

 図書室に入った後、よく考えれば図書委員は一人しかいなかった。でも一人だとその場を動けないはずだ。何か特別な先生への連絡方法が与えられるのか?そもそも、図書委員は普通、クラスごとに選ばれた二人で当番をする。確かに先生にさえバレなければ、一人に任せてさぼるヤツは結構いると聞いたことがある。だから、図書委員としても面倒臭いことは避けたいから、一発大きな音を出したぐらいで先生にチクったりするだろうか。

 本当は二人いたとか?外にいたら、その相方に連絡する方法はやっぱりないだろう。携帯は持ってきてはいけないことになっているし、こっそり持っていてもそれがバレる危険をおかしてまでチクるとは思えない。じゃあ中にいた誰かが二人目の図書委員だったのか。あの時いたのは誰だったかな。見える範囲では顔は見たことあるけど、ほとんど名前も知らない三年が五人ぐらいだった気がする。視線が僕に集まった時、汗が出るほど焦ったのは周りが先輩ばっかりだったからだし。見えないところにも誰かいたのか?

 図書室を飛び出してからはどうだろう。

 健二郎と肩車をした時、この様子を誰かに見られていたかもしれないが、図書室の入り口のドアは閉めて出たし、いくら夢中でも図書室のドアが開けば気づかないわけがない。遠くから誰か見ていたとしても図書室で僕らが大きな音を出したことを知らないから、廊下で肩車をしていたぐらいで先生に言いつけるヤツはいないと思う。

 図書室を飛び出してからは誰にも会っていない。僕らの後、図書室から誰も追いかけたりしてこなかったし、職員室で先生に会うまで誰にも会っていない。テスト前の放課後だから校舎にあまり生徒は残っていなかった。


 そういえば、僕らが先生に怒られている間、図書室はどうなっていたんだろう?特に騒ぎになっていないということは、特に何もなかったんだろうか。

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