第8話 天才と未知との遭遇

ゆっくりと、まずは少しだけドアを押し開ける。


誰かいる。誰かというか、緑色の何かが中で動き回っている。


(バタン)


中から強烈な力で押され、鍵をかけられた。


周りにバタンという大きな音が響いて注目が集まった。

心臓がバクバクして、汗が出てきた。

図書室はしーんとしている。

みんな僕を見ている。

せめて中から何か音が聞こえれば僕じゃないと証明できるのに。

ダメだ。限界だ。

周りに軽くごめんなさいという気持ちをこめてお辞儀をし、健二郎を連れて図書室を飛び出した。


夢中で飛び出し、図書室前の廊下で肩で息をしながら、健二郎と見つめ合った。


「それより健二郎、見たか?準備室の中」

「う、うん、チラッと。え?誰だった?先生?」

「い、いや、なんか、誰かいたのは確かなんだけど、緑だった」

「緑の何?」

「んー、外から見えないかな?ちょっと、健二郎、肩車」

「え、ちょっと」


図書準備室に外から入れる扉はなく、廊下側は上下二枚の窓になっている。下はぼやけているようなガラスで、上は透明の窓ガラスだから、肩車すればギリギリ見えそうだった。


「あれ?」

「ハッシー?」

「いない」

「え?」

「誰もいない」

「ちょっと、痛い、一回降りて」

「誰もいなかった」

「うそ」

「窓から逃げたのかも」

「二階の窓から?」


(ピンポンパンポン)

(「二年三組の橋本くん、宮本くん、今すぐ職員室に来なさい」)


 放送で呼び出された。しかも、完全に怒っている時の言い方で。

 この後、担任のくにおちゃんと生徒指導のヨネピーにすごく怒られた。くにおちゃんは怒るというより、状況を理解できていなかった感じで、ヨネピーが「図書室で騒いでいた」ということに対して散々ブチギレていた。その大声を聞き流しながら、ヨネピーの気が済むのを待っていた。こういう時は何を言ってもダメだ。どれだけ事実と違っても。僕は退屈をまぎらわせるために先生にバレないようにキョロキョロ見渡して何かヒントを探している。


アイツがいた。


アイツが職員室の入り口からこっちを見ている。僕が見ていることに気づいたのかどこかに走って行った。くそ、恥ずかしいところを見られた。

最終的に、「当分図書室出入り禁止、さっさと早く帰って家で勉強しろ!」ということで、速攻下校せざるを得なくなった。


帰り道、

「ハッシー、結局誰だったんだろう?」

「わからない。一瞬すぎて。でも全体的に緑だった気がする」

「え?もしかして、お、おばけとか?」

「たぶん、幽霊とかそういうのじゃないと思う。昼間だし、なんか、色がはっきりしてたし」

「外から見えなかったの?」

「なんか普通に本とか本棚とか色々」

「そっか。もう、図書室入れなくなっちゃったね」


 健二郎の心配はわかるが、これ以上あの中に誰がいたのかを考え出すと、何とも言えない興奮と恐怖に押しつぶされるような気がした。だから、別のことを考えることにした。ただでさえ怖がりな健二郎をこれ以上不安にさせたくない。


「そういえば健二郎、ちゃんとテスト用紙もってきたか?」

「うん、ずっと持ってたから」

「よし、テストはなんとかなりそうだな。今日は持って帰っていいから明日もってこいよ」

「え?いいの?ありがとう!」


 いつもより優しくしてあげた。こういう時に人は優しくなれるのかもしれないと思った。

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