第6話 天才とテスト期間
さて、さっきのは何だったんだ?アイツはたぶん片付けを手伝いたかったんだ。
でも、なんでだ?
アイツは理科も得意だからそんなところでいい子を演じる必要もないだろう。
他に考えられる理由としては、実験道具に触っていたかった?理科が大好き?勉強が大好き?そんなヤツがいるのか?まあ、あれだけ勉強が得意だったら好きにもなるか。
だとしても、それだと他の先生とも仲が良い理由がわからない。色んな教科が好きなヤツもいるかもしれないけど、なんかスッキリしない。勉強が好きなヤツの気持ちはわからない。
移動教室・特別な教室・授業終わりに先生と話す
この辺りにまだ何かありそうな気がする。
遅れて理科室から戻ってきたアイツは伸びた髪を綺麗に後ろで束ねていた。アイツは感情をあまり表に出さないが、束ねた髪がぴょんぴょんと跳ねて、楽しさを表わしているようだった。
それからまた数日考えたが、特に何もピンと来なかった。その間もアイツが移動教室の後、先生と話している様子は何度も見かけた。とはいえ、僕は毎回その様子をじっと眺めたり、話を盗み聞きするというわけにはいかなかった。
大体は話しているだけに見えたが、たまに集めたノートを先生と一緒に運んでどこかに持って行ったり、片付けを手伝ったりしていることがあった。
いくらアイツがいいヤツでも毎回授業終わりに先生に話しかけるのはいくらなんでも怪しい。何か手掛かりはないか。このままではアイツに勝負を仕掛けることなんてできない。
日々そんなことを考えている間に期末テストの時期になってしまった。テスト一週間前だ。帰りのホームルームではテスト範囲を一覧にしてまとめた範囲の紙が配られた。
僕には三つ上の兄ちゃんがいて、兄ちゃんの頃とほとんど先生が変わってないから、大体の問題の傾向はつかめる。兄ちゃんが僕のことを考えて保管してくれているわけではなく、整理整頓が苦手で、中学の時の教科書やプリントをほったらかしにしているだけだ。中一のある日、それに気づいた僕は、テスト範囲を確認して、兄ちゃんの机から同じ時期ぐらいのテストを引っ張り出すという作戦を思いついた。
もちろん、そのまま同じ問題が出るわけではないので、アイツのように何度も満点を取ったりはできないが、この問題を覚えれば、親や先生に文句を言われないぐらいの成績はとれる。ただ、自分一人でこの作戦を独り占めするのは悪い気がするので、信用できる健二郎にだけはこっそり見せるようにしている。このとき、クラスの他の人にバレると先生にチクられるかもしれないので、バレないように図書室の端っこなど、目立たないところを使うようにしている。
今日からテスト期間で部活は休みなので健二郎と秘密の約束していた。テスト範囲に間に合わせるだけの消化試合のような授業が終わり、僕と健二郎は一緒に図書室に向かった。図書室はクラスの教室がある校舎とは反対の校舎にあり、渡り廊下を通って二階の図書室に行く。テスト期間の放課後も図書室は五時まで開放されているが、テスト期間でさえ人が少ない。いつもと同じように入り口から一番離れた大きなテーブルの端っこに健二郎と隣り合わせに座り、兄ちゃんの机から発掘してきた過去のテスト用紙を健二郎と一緒に見ていた。科目はとりあえず五教科と、用語問題が多そうな家庭科を持ってきた。
「ほい、健二郎」
「ありがとう、ハッシー!」
健二郎は持参した問題集と僕の持ってきたテスト用紙を照らし合わせて、似たような問題の問題番号に印をつけていく。健二郎はかなりテキパキとその作業を進めていく。問題集のどの辺に同じような問題があるか見つけるのがすごく早い。もしかして先生が言うように、問題を覚えるために何周もしているんだろうか。
「ていうか、健二郎ならここまでしなくても、そこそこ点取れるんじゃないか?」
「え?せっかく取れるならもっといい点とりたいじゃん」
「まー、そうなのか」
僕はあまり健二郎の意見に賛成できない。このテスト用紙の持ち主である兄ちゃんは勉強が得意じゃないので、僕はこの当時の点より高ければそれでいい。それ以上良い点が取れれば嬉しいとは思うけど、めんどくさいという気持ちが勝ってしまう。だから、僕はテスト用紙に何度か目を通して、あとは完全に健二郎に預けて周りをキョロキョロしていた。いるはずがないとわかっていても、アイツがいたりしないかなーと探してしまう。
ふと、見覚えのないドアが目に止まった。
「健二郎、あのドアって何だと思う?」
「え?図書、準備室じゃない?」
「図書準備室?何を準備するんだよ」
「わかんないけど、この上って音楽室があって、その横が音楽準備室になってるから、その下は図書準備室かなって」
「準備室か」
待てよ。
そうか。準備室か。
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