第5話 天才と理科室

 木村が言うにはアイツは全員の先生に同じように仲良くしているわけじゃないということだ。特にはっせんと徳田好子とかはそこまで仲良くしてないらしい。ってなんだ?はっせんは国語で徳田好子は数学。はっせんは男で徳田好子は女。それ以外にもあるのか?この二科目だけ見ると、やっぱり、苦手科目だから学習意欲の点数をとりにいってるって感じでもなさそうだ。そもそもアイツに苦手科目はない。共通点としては、やっぱり五教科ということぐらいか。五教科の先生はあまり仲良くないのか?いや、だとしたら五教科の中でも理科教師で担任のくにおちゃんが入ってないのは気になる。たとえ木村が理科や、くにおちゃんのことを特別嫌いだとしても担任を入れないのは変だ。それとも担任なんだからアイツと仲が良いのは当たり前なんだろうか。


「ハッシー、次の理科、実験だよ」

「あ、そうだったけ」

「黒板の横にメモ貼ってるじゃん。『理科室集合 くにお』って。そろそろ行かないとヤバいかも」

「そっか。ありがとう」


後ろの席の健二郎が次の授業のことを教えてくれた。危ない。忘れてた。


待てよ。


理科は実験で理科室に行くことがある。そう言えば、国語と数学はそういう教室がないな。これは共通点だ。だったらなんだ?そういう実験室みたいな教室が好きとか?

何か気になる。

とりあえず今日は理科室をしっかり観察してみよう。

僕は健二郎と一緒に急いで理科室に向かった。


 理科室は移動教室とはいえ、普通の教室とおんなじ座り方だ。僕の席は一番前の角だから、アイツがこの実験室の何かを気にしていることが確認できない。実験が始まれば割と視線に自由がきくだろうか。


「はい、じゃあ、各班この手順で実験始めていきましょう」


 周りを見渡すと、アルコールランプ、ガスバーナー。マッチ、ムダに勢いの強い水道、上下する黒板、薬品や道具の入っている棚。んー、全くわからない。物が多すぎて、逆に気になるものがない。アイツは普通に実験をしている。ガスバーナーに火を灯して空気の量を調節している。

その瞳には青白い炎が映り込んでゆらめいていた。


 そうこうしている間に授業が終わった。なんだかいつもの授業より疲れた。さっさと教室に帰ろう。そう思った矢先、目の前をアイツが通り過ぎた。アイツがくにおちゃんとしゃべっている。授業終わりに何を話しているんだろうか。ちょうど聞こえないぐらいの声だ。アルコールランプやら、今日使った実験道具をいくつか抱えている。

そんなに理科が大好きなのか?

いや、片付け手伝いますみたいな感じか?

どんだけいいヤツなんだよ。

あ、でもくにおちゃんにいいよいいよっていわれてるようだ。早く行けというジェスチャーをされている。

アイツの厚意はどうやら断られてしまったようだった。アイツは少し落ち込んでいるようにも見える。そんなに落ち込むことか?

そう思って眺めていると、突然アイツがこっちを振り返ってきた。

僕は素早く目を逸らした。


「橋本くんは何を見ていたんでしょうか?ねー、先生ー」


 危ない。聞いてないぞ。何も聞いていないが、これ以上見ていると怪しまれる。さっさと教室に戻ってさっきの現象を分析しよう。

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