第4話 天才と木村
この数日アイツを観察していて分かったことがある。授業終わりによく先生と話している。いや、以前からわかっていたことだが、やっぱりアイツは先生達とやたらと仲が良い。
仲が良いというよりは、先生に信頼されている、もしくは信頼を得に行ってる感じがする。入学して一年三ヶ月ちょっとでここまで仲良くなれるのかと驚く。
これはまずい。
アイツとの勝負はあくまで一対一を想定していて、他の人の評価や目線が勝敗を分けることだけは避けたい。仮に僕がアイツをなんらかの方法でギャフンと言わせたとしても、僕が何か別のところからダメージを受けて共食いみたいになってはなんの意味もない。
そうだ。
これはあくまで僕とアイツの戦いだ。
しかし、この状況はどうしよう。さすがにアイツに先生と仲良くするのは反則だというわけにもいかない。それこそ僕が不利になってしまう気がする。
待てよ。
そもそもアイツがあそこまでして先生と仲良くなるのには、何か理由というか意味というか、があるんじゃないか?
確かに成績には多少影響するかもしれないが、仲の良さで評価に大きく差をつけてしまうと先生としてもあまり良くないし、そんなことをしなくてもテストで十分な成績をとれるアイツには無駄な労力になるんじゃないか?これはきっと何か別の理由があるに違いない。攻略の糸口はここにあるかもしれない。
そうだ。
これだ。
この謎を解き明かせばきっとアイツをギャフンと言わせられるに違いない。
まず仮説としては、何かドラマみたいな特別な関係を求めているとか?
いや、確かな確証はないけど、仲の良い先生に男女の差はない気がする。ベタベタしている感じでもないし、ヘコヘコしている感じでもない。
何かヒントはないか。
そう考えている時、
「ハッシー?」
木村が僕に話しかけてきた。アイツと仲が良く一緒に行動してることが多い木村だ。こいつは制服を最大限着崩すタイプの女子で、見かけるたびにスカートの丈をミリ単位で直している。毎月の風紀検査では先生と不毛な議論を繰り広げ、いつもギリギリで切り抜けるタイプの女子だ。そして、小学校が一緒でなければ、僕が絶対仲良くしないタイプの女子でもある。
「どした?」
「いや、どしたっていうか、なんかハッシー、最近ずっとめっちゃなんか考えてんなーと思って」
「あー」
確かに最近アイツの分析に集中することが多い。しかし、そんなに気になるぐらい前と違うんだろうか。いつから違うんだろうか。
「え?そう?なんで?いつからそう思った?」
「そう!その感じ!なんかハッシーって小学校の頃からなんでも『なんで?』って聞いてくる感じだった。最近それがなかったっていうか、一人で考えてる感じ?」
「ほー」
これは驚いた。そういえば、木村は普段はバカっぽいが、たまにこういう鋭いことを言ってくるヤツだった。しかし、他人との距離の取り方は考えた方がいいと思う。僕はいつからこの女子にハッシーと呼ばれていただろうか。とはいえ、これはもしかすると良い機会かもしれない。周りの人物に話を聞かずに事件を解決する探偵や刑事なんていない。こういうの、なんていったかな?取り調べ?事情聴取?そういうヤツだ。たぶん。
「木村に聞きたいんだけど、林田ってなんであんなに先生と仲良くしてるか分かる?」
「え?先生とミサが?どの先生?」
「どのっていうか、全員かな?」
「んー、そんなことないと思うよ。はっせんと徳ちゃんとかはそこまでじゃない?」
「そうなのか?なんで?」
「え?わかんない。直接聞いてみれば?」
「いや、そこまでじゃない」それは反則だ。
「ふーん、ま、うちにわかることあんまないかもだけど、何かあったら言ってね」
「木村、すごくいいヤツだな。なんか将来いいお母さんになりそう」
「なにそれ、普通にありがとう。じゃあ」
木村、すごくいいヤツだな。なんか将来いいお母さんになりそうだなっていうのは本心だけど、なんか言った後で恥ずかしくなった。今から「いや、そういう意味じゃなくって」って否定しに行っても逆に変な感じがするから、まあ、いいか。
え、どうしよう。大丈夫かな。
大変だ。余計なことで頭がいっぱいになって大事なことが考えられない。
こういう時は、健二郎だ。
「健二郎、もし、将来いいお父さんになりそうって言われたら、どう思う?」
「え?いや、嬉しいけど、なんで?」
「なんで?いや、別に」
「なにそれ。まあ言われた相手によるかもね。もし、好きな人に言われたら、ドキってするんじゃない?」
「そうか」
「え?誰に言われたの?」
「いや、大丈夫。言われたんじゃなくて、なんとなく思っただけ」
木村は別にドキッとしてなさそうだった。よし、大丈夫だ。「普通に」って言ってたし。
さて問題はアイツだ。せっかく木村から少しでも情報を得たんだ。一応検討しよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます