アイラと不思議なダンジョン

十二イマーム派

プロローグ


「はぁっ……!はぁっ……!」


 森の中を一人の少女が駆ける。

 その細い肢体からは血が流れており、薄い身体には折れた魔物の角が生えている。


(どうして……?どうしてこうなるの……!?)


 少女の背後から迫ってくるは緑色の肌に、醜悪な顔面で涎を垂らしながら下卑えた笑みを浮かべ追いかける魔物─────即ち、ゴブリンである。


『ギャアッ!ギャアアッ!』


「ひ……!?ス、スカートが……!」


 ゴブリンが投擲した短剣が少女の安物のスカートを貫き、そのまま地面へと突き刺さる。当然、少女は逃げる術を失った。


『グギャギャ……!ギャーッギャッギャッギャ!』


「い、いや……何するつもりなの……!?来ないで!いやっ!嫌だぁぁぁぁっ!」


 少女に跨ったゴブリンは短剣を引き抜き、そのまま少女に叩きつける。切れ味の悪い短剣であった為、少女は斬られる事なく何度も、何度も打撃を喰らった。

 段々と少女から悲鳴が上がらなくなり、冷たくなっていく様子を木の上で見ている者がいた。


「………今しかない!」

 ゴブリンが少女にトドメを刺した瞬間、木の上から影が飛び出し、白い光と共にその首を斬り落とした。

 どばっ!と流れる紫色の返り血を払いながら、影は振り返る。


 長い耳に白い髪、そして細っそりした身体はまさに、伝承に記されたエルフそのものであった。しかし、その瞳だけは煌々と緋く輝いていた。

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