第3話 現実

 頭が痛い話だ。余りの現実味の無さに、思わず笑みを漏らした。


 彼女の言う通り、僕には以前の記憶というものが殆ど存在しない。


 名前も、好きな事も、大好きな人でさえ、なにも思い出すことが出来ない。


 「貴方には、申し訳ないと思っている。だけど、もう存在しない。」


 存在しない。もしその言葉が真ならば、僕はもう、この世には存在しないことになる。そんなこと、許されるのだろうか。いや、そうではない。記憶がないことにこそ、憤慨するべきではないのか。


 沈黙が、この場所を支配していた。

  

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