霊獣使いが俺の生活を邪魔している!

紅月

第1話 「波乱万丈の都会生活」

春。

 暖かな日差しがカーテンの間から差し込んでくる。

「ん……もう朝か……」

 おもむろに手を伸ばしてスマホを探す。

 時間は――

「――六時半か」

 スマホのアラームより早く起きてしまった。

 都会での新生活と新しい高校生活のワクワクで寝つきが悪かった。

「とりあえず朝飯でも食べるか」

 登校までまだ二時間近くあるし、準備とかしてたら時間が経つだろ。

 体を起こしてベットから離れる。その時――

 ――ピンポーン

「うわっ!?」

 こんな朝早くに来客? 誰だよ。

『……起きてるかな? もしもーし』

 玄関モニターを覗くと、見覚えのある女子が何度もインターホンを押していた。

「なんだ、美華みかか。起きてるぞ」

『あ、おはよう! 早起きだね翔君』

「人のこと言えねぇぞ。なんでもう制服着て俺の迎え来てるんだよ」

『えへへ、都会暮らしにワクワクして寝れなかったんだもん!』

「お前もか……」

『あれれ? もしかして翔君もかなぁ?』

「あぁそうだよ。とりあえずまだこっちは制服すら着てないから上がっていけよ」

『いいの!? じゃあお言葉に甘えてお邪魔します!』

 慣れない操作でマンション入り口の自動ドアを開けてはカメラを切る。

「今のうちに着替えだけ済ますか」

 そして、美華が来る前に寝巻きから高校の制服に着替えた。


                           

 俺の家に上がって来た美華が早々に台所に立つと当たり前のように朝食を作り始めた。

「相変わらずだな、朝食作るの」

「えへへ、これしないと落ち着かないからね」

「中学からずっとだもんな、習慣になってるのは分かる」

「翔君のご両親朝早かったもんね? 最初はおにぎり作るのに精一杯だったけど、今は鮭も焼けるしお味噌汁も作れるよ!」

「成長したな……お父さん嬉しいぞ」

「私たち幼馴染だよね!?」

 両親が農家で朝早くから居ないことが多かった。

 小学校は作り置きの朝食があったが、ギリギリまで寝ていて遅刻気味になり朝食を抜いて登校することが多かった。

 そんな状況を危惧した美華が俺の近くに住んでたこともあり、勝手に家に上がり込んでは朝食を作るという習慣がいつの間にか出来ていた。

「本当は、翔君もそろそろご飯を作って欲しいけど……いざっていうときもあるし?」

「えー、俺はいいよ。どうせ作らないのは自分でもわかってるからな」

「でも、都会生活だよ? 実家みたいに田舎じゃないし、スーパーもコンビニも近くにあるから挑戦したほうがいいと思うよ?」

「まぁ……気が向いたらな」

「絶対やらないじゃんそれ……」

 美華が若干呆れ気味に返事をするのを聞きながら、朝食が用意された机に座る。

「先食べてて〜」

「へいよ〜、いただきます」

 そう言われると先にご飯を食べ始める。

 味噌汁に焼き鮭。定番とも言えるメニューだが不思議と飽きない。

 そんな朝食に舌鼓を打っていると、美華が対面に座った。

「私もいただきます」

 美華も明るい声色で手を合わせて食べ始める。

「そういえば、翔君は都会暮らしに慣れた?」

「全然。ていうかまだ引っ越して一日目だぞ?」

「そっか! それはまだ慣れないね」

「本当はお前と一緒に一週間前から行く予定だったけどな。うちの収穫で忙しくてそれどころじゃなかったからな」

「あはは、私の家は農家じゃ無いからね。その辺は予定通りに進んだよ!」

「流石、村長の娘さんは計画的だな」

「何事も前準備は必要だよ」

「そうだな。地元に高校が無いからって引っ越し先を探してくれたのも美華とご両親だったしな」

「幼馴染として当然だよ! いつも翔君のお家からはお野菜とか貰ってたし! 村の卒業生も私たち二人だけだからついでにね?」

「まぁ、何はともあれ助かった。美華が動いてくれなきゃ今頃、実家に居たしな」

 ご飯を食べ勧めながらそんな会話を続ける。

「そう言えば、今日たまたま俺が早起きしてたから順調に家に上がってこれたけど、俺が起きてなかったらどうするつもりだったんだ?」

「えー? んー……」

 そう聞くと、美華は箸を止めて深く考え込む。

 そんな難しいこと聞いたかな?

「多分、不法侵入してたかな?」

「どうやってだよ……」

「ふふ、誰がこの部屋の契約をしてると思ってるのかなぁ?」

 なんてニヤニヤしながら制服の胸ポケットから鍵を取り出して見せつけてくる。

「……万が一の時に使えよ?」

「もちろんだよ、翔君♪」

 声色明るく返事してくる美華。信頼はしてるが少し心配だなぁ…

「そう言えば、今日って入学式だけだったっけ?」

「ん? そうだぞ。学校で入学式とクラス分け発表されて終わりだな」

「じゃあ順調に行けば午前中で終わるのかな?」

「じゃないか? 一時に終われば良い方だろう」

「翔君は終わったら何するの?」

「俺か? 別に予定は無いな。美華が行きたい所あるのか?」

「そりゃ都会と来たら『オイオ』行かなきゃね!」

「『オイオ』? あぁ、アレは『オイオ』じゃなくて『010《ゼロイチゼロ》』だぞ」

「えぇ!? 絶対『オイオ』だよ!」

 ロゴは確かに紛らわしいけどな。

「そう言う読み間違いしてると、田舎者って笑われるぞ?」

「別にいいもーん。田舎者も都会者も人である事は変わらないからね!」

「前向きだな、本当に村長さんの娘かよ」

「お父さんは、村の事になると問題が多すぎるから後ろ向きになるだけだもん!」

「はいはい。まぁ、あんまり頭抱えさせないようにしないとな。出ないと少ない毛がまた減る事になる」

「その為にも私たちが立派になって村に貢献しないとね! 立派に植毛技術学んで!」

「学ばねぇよ! 普通の高校に行くんだから学べねぇよ!」

 そんな談笑をしながらご飯も食べ進め、お互い同じタイミングで食べ終わる。

「ご馳走様。また明日もよろしくお願いしますわ美華殿」

「苦しゅうないですぞ翔介殿ぉ」

 なんて会話しながら食べ終えた2人分の食器を持って台所に行く。

 昔は朝飯から片付けまで美華がしてくれたが、善意で飯を作ってくれてるのに全部任せっきりだと罪悪感が出てきて、1年前位から洗い物は俺がするようになった。

 一人暮らしをする上でやってて良かったと思う。

「翔君、洗い物終わったら学校行く?」

「え? もうそんな時間か?」

「まだ七時半くらいだけど、歩き出し迷って遅れたら嫌だなぁって?」

「まぁそうだな。入学式は九時からだし八時半に確か受付とかしないと行けなかったもんな……じゃあ、行くか」

 少し手早く洗い物を済ませて手を拭き、その間に美華が俺の鞄を持って来てくれた。

「鞄サンキュー美華」

「いえいえ。じゃあ……道案内任せたよ!」

「おう! 任せとけ!」

 こうして輝かしい高校生活の第1歩を、俺達は歩み始めた。


 ☆


「はぁ……何とか着いたな」

「ほんと……都会って恐ろしい所だよ……」

 七時半頃、家を出た俺達に待っていたのは輝かしい高校生活じゃなく険しい道だった。

 入り組んだ道、長い坂に長い信号、騒がしい車の音と歩道を我が物顔で走る自転車。マップ見る為に立ち止まると自転車にベルを鳴らされ、その光景を慣れたかのように通行人は何事もなく通り過ぎていく。そこに追い討ちをかける地下と地上を分けずに表示するマップアプリに翻弄されながら、何とか八時半前に高校の校門に辿り着いた。

「これから私達はこの道を毎日歩いていかないと行けないんだね……地元みたいに農道とか歩けないの!?」

「受け入れろ、これが都会の洗礼だ……」

「翔君は適応能力高すぎるよぉ……」

 怖気付く美華の手を掴んで軽く引っ張りながら、校門前に居る大人の所に行く。

「おはようございます。新入生の方でしょうか?」

「はい、受付はどちらに……?」

「受付はこちらでお伺いしますよ。ようこそ『山峰高等学校』へ」

 すると、受付の人に案内されて近くのテーブルに向かった。

 受付の人はボールペンを取り出し、数多くの名前が書いてある紙を机に広げた。

「そうしましたら、お二人のお名前を教えて頂けますでしょうか?」

「僕が『須藤 翔介すどう しょうすけ』です」

「『須藤 翔介様』……はい、確認できました。えっと、そちらの方のお名前は……?」

「……はへぇ……『神谷 美華かみや みか』ですっ……」

「すみません、登校途中色々あって疲れてるんすよこいつ」 

「は、はぁ……『神谷 美華様』ですね?」

 少し困惑しながら受付の人は俺達の名前に丸をつける。

「はい、お二人共確認が取れました。ちなみに保護者の方は本日要らしてますか?」

「いえ、2人とも不在です」

「かしこまりました。それじゃあこちらが本日の流れになっております。式が始まるまでに第一体育館に集まって頂きますようお願いしますね」

 そう言われると、パンフレットとプリントを渡されて受付が終わった。

「美華、行くぞ」

「んえぇ……」

 美華の手を引っ張りながら校舎に向かって歩いて行く。

「それにしてもデカい学校だな」

 渡されたパンフレットを見ながら校舎の説明を見る。

「『山峰高等学校は4階建ての学び舎を長年使ってきました。しかし、今年度より新たに5階建ての新校舎を建設し、より多くの学生の学びを支援致します』だってさ。都会はやっぱ学生が沢山いるんだな」

 そう言いながら校舎を見上げる。

「アレは……?」

 屋上のフェンス越しに人らしき姿が見える。

 何となくだがこっちを見てる気が――

「「――ッ!?」」

 ――目が合った瞬間、全身に電撃が走ったかのような身震いを感じ、思わず目を背ける。

「なんか……凄い寒気……」

 美華も感じたのか、繋いでる手が冷たくなる。

 目が合っただけなのになんだろう、この身の毛のよだつ震えは。

 怖いもの見たさと言うべきか、ゆっくりとまた屋上の人の姿に目線を持っていく。だが――

「――居ない」

 既に人はもう居なかった。

「なんだったんだ一体……」

 唖然としながらも、小刻みに震える美華の手でハッと我に戻る。

「とりあえず校舎に入るか」

「うん……っ」

 考える事を後にして、俺達は新入生の待機教室に向かって足早に歩いていった。


 ☆


 待機室に連れて行って暫くすると、美華も落ち着いていつも通りの体調に戻った。その後はすぐに入学式の為に体育館に移動。

 入学式は至ってシンプル。校長の話、生徒会長の歓迎の話、中学校でやったことあるような似たような式だった。

(退屈だな)

 あんまりキョロキョロするのも式としては美しく無いし、じっとして教壇を見てるしか無い。目線を動かして美華の様子を見ようと思ったが、視界に入る範囲には居ない。何度も時計を見ては時間の進む遅さに落胆する。

 永遠とも言える式の時間を過ごした。



「退屈だったねぇ〜」

「退屈だったな」

 入学式が終わった後、美華と合流して帰路に着いた。

「都会の入学式だからちょっと期待したんだけどな〜。花火とか演劇とか!」

「文化祭じゃないんだからそれはないだろ」

「でもでも、何かあると思うじゃん!」

「そうか? 俺は思いつかないぞ」

 そう言いながら来た道を話しながら歩いて帰る。

「そう言えば、この後どっか行くのか?」

「え? んー……行きたい所いっぱいあるけど翔君も行きたい所あるでしょ?」

「俺は別に良いよ。いつでも行けるし」

「そうなの? じゃあお言葉に甘えてオイオに行こう!」

「010《ゼロイチゼロ》な」

「オイオだよ!」

 そんな会話をしながら、目的の場所に向かった。


 ☆


「オイオだー!」

 大型ショッピングモール『010《ゼロイチゼロ》』を指さしながら美華が大声を上げる。

「うるさいぞ、田舎者」

「うるさくもなるよ! もっとうるさく出来るよ!」

「ならなくていい! にしてもほんとにデカイな。家の畑くらいデカいんじゃないか?」

「翔君、その例えも田舎者だよ?」

「え? そうか?」

「あっ……自覚ないんだね……」

「おい、なんだその可哀想なものを見る目は」

「可哀想なものじゃなくて、田舎者を見てるんだよ」

「美華、もしかしてもう都会に染まったのか?」

「もちろんだよ! もう私はナウいチョベリグな女子高生だよ!」

 そう言いながらスマホに大量に付けたストラップを見せつけてくる。

「全部古くないか? チョベリグなんて俺の親の世代の流行語だぞ」

「古いなんて関係ない。私がこれからの時代だ! この時代のドアは私が切り開く!」

 ショッピングモールの入口まで来ると、ドアに右手をに手をかざして決め台詞を吐く美華。だが、ドアは開かない。

「おーい美華殿、早く時代のドアを切り開いてくださいよ」

「な、なぜ開かない……都会のドアは全部自動なはず……」

 美華は顔を真っ赤にしながらドアに指をひっかけて無理やりこじ開けようとする。

「バカバカ! 無理矢理開けるものじゃないって!」

「離して! 私の名誉の為にコレは開けないと行けないのよ!」

「急に脳筋になるなよ! 開ける方法があるはずだから!」

 無理に美華を後ろから羽交い締めしてドアから引き離す。が――

「――ふんぬ!」

 あっさりと腕をすり抜けられる。

「貰ったぁ!」

 勢い良く美華がドアに手を着くと、ゆっくり開いた。

「嘘だろ、そんなので空くのか……」

「時代よ! 私の勝ちだ!」

 ご機嫌な声を上げて美華がショッピングモールの中に入っていく。

 そんな、叩けば空くってモノじゃないだろこれーー

【こちらを押して開けてください】

 ……なんだ、ボタン式か。

 自動ドア1枚でこんなはしゃげるのはある意味いい事なのかも知れないな。

「翔君! 置いてくよ!」

 遠くから美華の声が聞こえる。

「はいはい、今行きますよ〜」

 小走りで美華に追いつくと、隣を歩く。

「それで、お前は何が欲しいんだよ」

「時代を手に入れた私にこれ以上欲しいものがあるとでも?」

「帰るぞ」

「わわ! ごめんなさい! 真面目に戻るから帰らないで!」

「ったく……」

「とりあえず行きたい所は本屋かな? 都会の出版日は早いから!」

 そう言われながら美華に手を握られると引っ張られてしまう。

「そう言えばお前の欲しい漫画今日販売だったな」

「続きが気になって仕方なかったんだよね!」

 よく家に遊びに来てた美華は、俺がゲームしてる所を見たり漫画を読んだりして、比較的に趣味が男子高校生傾向に寄りつつあった。なんなら、俺よりもオタクしてる気がする。

「今回出るのが最終巻だから、絶っっっ対手に入れないと!」

「分かったから、エスカレーターの上では大人しくしろ」

 その場で足踏みをしながらゆっくり登っていき、三階まで登りきった目の前に本屋があった。

「やっと来たぁあ! じゃあ私買ってくるね!」

「お、おい! モールで走るな!」

 エスカレーター降りた瞬間に風のように走り去る美華。

「全く……誰よりも男子高校生してねぇか……」

 そのまま本屋に向かって後を追うように歩き始める――

 ――ドォォン

「!?」

 突然モール内に爆音が響く。

 何かが爆発したとかじゃなく、何かが落ちたようなそんな感じがして俺はモールの中を見渡す。

「何だアレは……!?」

 モールの中央には、天井を飾ってたシャンデリアが一階に落ちていて、その周囲は土煙に覆われて何も見えない。

『キャァアアア!』

『逃げろ!』

『何が起きてるんだ!』

 モール内は、人々があらゆる出口を求めて逃げ出したり、その光景をスマホで撮ったりと大騒動。

「早く美華を連れて逃げ出さないとーー」

 その瞬間、土煙が一瞬にして吹き飛ばされると共に三階まで伝わる熱波が押し寄せる。

「熱ッ!?」

 真夏の直射日光を浴びてるかのような熱さが全身を覆う。その熱波の発生源には――

「女の……子?」

 ポニーテールで真っ赤な髪色をした女の子が背を向けて立っていた。

「まさか……あの子がこんな暴れてるのか!?」

 信じられない光景に目を疑う。

 すると女の子は振り向いて睨んだ目が俺と合ってしまう。

「うぉ!?」

 鋭い眼光に思わず後ずさりをしてしまう。これが本物の『覇気』って奴なのか……?

「た、助けてください……」

 後ずさりした背後にマスクをした女性が話しかけてくる。スーツ姿で顔は汗ばんで、今にも倒れそうなフラフラとした状態だった。

「だ、大丈夫ですか?」

「逃げたくても暑くて……走れなくて……」

 どうしよう、どんどん熱波が強くなってきてる……美華を連れてくる前にまずはこの人をなんとかしないと死んでしまう。

 周りを見渡すと、近くに緑色の非常口看板が点滅していた。

「とりあえず肩を貸すので、あそこまで行きましょう!」

「ごめんなさい、ありがとう……」

 女性と肩を組んで進み始める。

『今すぐその女から離れなさい』

「「――!?」」

 背後から女の子の声が聞こえ、思わず足が止まる。

「お前は……」

 さっき一階に居た女の子が、さっきまで手を握ってた手すりに立っていた。

「聞こえなかった? 早くその女から離れなさい」

「こ、この人は怪我人だ……それに……お前がそのよく分からない熱波を辞めれば済む話だろ!?」

 女の子は一瞬キョトンとした目をすると、歯をむき出すような狂気な笑顔を見せる。

「その女だけじゃなくて、貴方もこの熱波を感じるのねて……貴方は『どっち側』なのかしら?」

「『どっち側』……?」

 そう聞き返すと女の子の周りの空気が歪むくらいの熱が放出し始める。

「――ッ 逃げるぞ!」

「――あ、ちょ!? えぇ!! 速すぎ!」

 女性が俺の手を掴むと猛スピードで非常口に突進してドアを突き破り外に出された。


 ☆


「ここまで来れば……」

 アクセル全開のバイク並のスピードで女性に引きつられること数分、モールから遠く離れたボロボロの廃屋まで逃げ込む。

「お姉さん……足早すぎません……世界狙えますよ……」

 しがみつくのに必死だった。

 昔、親父が原付で誰もいない農道を俺を連れて爆走したのを思い出した。あの時は無邪気で楽しんでいたが、今はもう怖くて楽しめないだろうな。

「えぇ? 私は人より足が速いだけで普通よ……?」

「人じゃないでしょ、その足の速さは」

「あ、暑さでどうかしてただけよ……」

「それもそっか……ってなるか!」

 確かに暑かったけど、あんな爆速で走られたら頭も肝も冷えるわ!

「まぁまぁ、私のおかげで逃げれたからそんなに責めないで?」

「責めては無い! 責めては無いが……色々あり過ぎなんだよ。あの女の子はお姉さんの知り合いなのか?」

 ショッピングモールで出会った異様な熱気を放つ女の子。そもそもあの子に最初に追いかけられてたのはこの人だった。その時からおかしな事が起こりすぎている。

「なんて言ったらいいかしら、少なくともあの子は初めて知ったわ。でも、あの子の『血筋』は遺伝子レベルで刻まれてる位に知ってるわ」

「『血筋』? なんか、有名な家系なのか?」

「えぇ、超有名よ。貴方もあの強烈な熱気を感じたのでしょう? アレが噂の『真紅の霊獣使いしんくのれいじゅうつかい』よ」

「『真紅の霊獣使い』? おいおい、暑さで頭バグったのか……? それとも俺を子供だからっておちょくってるのか? 大人になってもまだ厨二病かよ」

「あら? 貴方はあの熱気を感じたのなら少なくとも力があるんじゃないかしら?」

「何の話だ。俺は産まれてからずっと平凡な人間だぞ」

「へぇ、そうなの……無知なのね――」

 小さく呟いたお姉さんが、いきなり俺の両肩を凄い力で掴んで来る。

「――痛っ!? な、何するんですか!?」

 に、逃げれない……体格差は俺の方が有利なのになんて力だ!

「知らないのならその身体に教えてあげようかなぁって……ふふ、所で貴方の名前は?」

「な、名前は……翔介だけど」

「翔介君ね! いい名前だわぁ……所で何だけど、私って綺麗だと思う?」

 強引に目を合わせてきては、黒髪の綺麗な長髪をなびかせて、黒いマスクに口元が隠されてるものの、綺麗な瞳が合ったらマスク越しでも分かるくらい綺麗な人だと思ってしまう。

「き、綺麗だと思いますよ? マスク越しでも十分」

「嬉しいわ……それなら、マスク取っても綺麗か見てくれるかしら」

 そうすると、マスクに指をかけてその素顔を見せてくるーー

「――ぅ、っ」

 マスクを外すと両耳まで避けた口、鋭利に尖った無数の歯、そして一気に伸ばしてくる長い舌。全てが人とは思えない規格外の部位が現れた。

「ねぇ……綺麗?」

「き、き……」

 キモイ……。

「ねぇ、答えてよ、答えないと食べちゃうゾ」

 怖すぎて声が出ない。悲鳴も出せない。

 体が強ばって動けない。

 肩を掴む力も怪力、逃げてもすぐに追いつかれる。

 脳内でどんなシュミレーションを立てても生きてる未来が見えない。

 ――終わった。

「ちぇ、この人も答えてくれないや。ただ綺麗って言うだけなのにね? まぁ、この人は力があるみたいだし……美味しく頂こうかしら」

 化け物は満面の笑みになりながら、裂けた口を大きく広げる。

「いただきまぁす――」

 さよなら、俺の都会生活。

 ――ガブッ

 

第1話 終

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