第10話 バカ女とメイド喫茶とロリータ


「いい加減にしてよ。全員立たせて怒鳴りたい。一体君らは何のためにそこに座ってるんだ」


 清涼祭当日、Fクラス生徒たちは補習室で弛緩しきっていた。各々が胡坐をかいてやる気のなさそうな表情を浮かべている。すでに学園祭は始まっており、校内に少しずつ客がやって来ているのに対して、Fクラスの中華喫茶は半ば開店休業状態だ。

 幸いにして、秀吉や瑞希の頑張りでテーブルなどの準備は終えられたものの、客を迎え入れられるような体制ではなさそうだ。これには現場統括を自称している亮も憤りを隠せない。


「もう終わりかかってるような奴に……」

「ジッィジィ!ィエーヘイ!ペケモンゲットだぜィエーヘエェ!ミナアキのブンモハァー!」

「まーたジグザグマかよ。死ね」


 だが、いくら亮が大声で喝を入れてもクラスメイトたちはどこ吹く風だ。自由気ままにゲームをしたり怠けている。

 羊の集団でもリーダーが狼に変われば、羊はみな狼に変わる。逆に言えば、陣頭指揮を執るのがロクでなしであれば、羊はナマケモノに変わるというわけだ。武人然としたFクラス男子は嘆息すると苦言を呈した。


「我々の忠義は島田閣下にあり。かのお方が精魂尽きている以上、我らは動かぬ」

「島田閣下バンザーイ!吉井大天使バンザーイ!」

「もう終わりだよこのクラス


 思考停止で美波に付き従おうとする同級生に流石の亮も匙を投げる。凡人1人の熱意だけではカリスマ的暴君の残した爪痕をなくすことはできないのだ。

 さて、当の閣下こと美波だが、補習室の隅で絶望感に満ちたオーラをまとって体育座りをしている。


「恋愛なんてこの世から消えてしまえばいいんだ」


 ぶつぶつと独り言を繰り返しながら暗い目で虚空を眺める姿は、見ていて哀れを通り越して怖いくらいだった。


「大きな星が点いたり消えたりしている……アハハ、大きい!彗星かな?いや、違う……違うな。彗星はもっとバーッて動くもんね」

「ねぇねぇ、どうして美波ちゃんは精神崩壊してるの?」

「えっと……私の口からは言えないです……。その……ごめんなさい……あの……ハニー?」

「え、なになに。どうしたの急に。よくわかんないけど、ダーリンって呼んだ方がいい?」

「あぅ……」

「ミズアキ?アキミズ?」

「キマシタワー」


 すっかり恋人を通り越して夫婦気取りな瑞希のノリに、明奈は首を傾げつつも乗ってしまう。自分の失言がもたらしたカオスな状況を理解できていないバカ女なのであった。

 そんな甘酸っぱい百合青春ラブコメ空間もモジャモジャ頭の中華料理人の言葉で中断される。


「オイ。如意瑞鳳の完成だ。とっとと運べ」

「アイヤー!シェイシェイ!さっそくお客さんに持って行くアルねー!」


 料理を受け取った明奈は、迷走気味のキャラ付けで配膳に向かう。


「タオタオ星からお待たせしたアル!なんかスゴそうな中華3人前アル!」

「変な語尾ザウルス」

「人をバカにした語尾ナノーネ!」

「そんな語尾でよく外に出られるでハックツ」


 お前らに言われたくないオブザイヤー。イロモノ決闘者トリオの戯言にイラっとしてしまう。

 流石の明奈も失礼なクレーマーたちを殴ってやろうと拳を握りしめていたが、シャッター音に気付き視線を落とした。足元を見ると、虫のように這いつくばって明奈のことを撮影している康太がいた。


「ちょっ!ムッツリ-ニっ!?なんでこんなところにいるの!厨房の担当でしょ!」

「…………邪悪なノッポ料理人に追い出された」

「あの怪しい男だけで厨房がフル回転しておるのじゃ。おかげさまでわしらはお役御免というわけじゃ」


 振り向くとそこにはウェイター姿をした秀吉が立っていた。どこからどう見ても男装している美少女にしか見えないが、言わぬが花だろう。

 その後ろでは雄二がかつてないほど爽やかな笑みを浮かべて腕を組んでいる。


「よう吉井。相変わらず元気そうで何よりだ。清涼祭も楽しんでいこうぜ」

「過去最高に気色悪いよ雄二。笑顔がキモすぎてサブいぼと蕁麻疹が出ちゃったよ」

「ははは。そうかそうか。そんなお前にプレゼントがあってな」

「あの……雄二?どうして後ろから腰回りに手をまわしているの?セクハラ?」

「てめーみたいなクソにセクハラなんかしねぇよ!死ねゲロカス女ァ!」

「グスタフ・カール!」


 鮮やかなジャーマンスープレックスホールドに教室内のお客様たちは拍手喝采。先ほどのイロモノ三銃士もスタンディングオベーションしている。

 これぞ散々バカ女に煮え湯を飲まされてきた男の仕返しである。漢・坂本雄二は男女平等に暴力を振るう21世紀の紳士だ。自称、一億年に一度の美少女が相手だろうと容赦はしない。なお、今朝もバカ女に騙されて差し向けられた翔子にはなすすべなく完全敗北した模様。


「痛いよ雄二!このせいで頭が悪くなったらどうするのさ!」

「もとからだろ」

「他人のせいにするでないぞ」

「…………自業自得」

「せっかくですし皆さんもホールで配膳係をしませんか?女装して」

「瑞希ちゃん……飲食店で汚物を陳列すると営業停止処分になるんだよ?」

「そこのゴミカスの言う通りだ姫路。秀吉ちゃんと違って俺たちの女装なんて見れたもんじゃないぞ」

「…………女装男子の秀吉ちゃんと俺らを同列に扱わないで欲しい」

「雄二、ムッツリーニ……後で覚えておくのじゃぞ」


 いつも通りのゆったりとした茶番を繰り広げる5人だったが、そんなゆっくり茶番劇を中断させる小悪魔が軽やかな足取りで突撃してきた。


「バカなお姉ちゃーん!」

「ギャルセゾン!」

「明奈ちゃん!?」


 突然襲来してきた幼女のロケット頭突きで明奈は倒れた。全盛期のエドモンド本田を彷彿とさせる芸術的な一撃だ。ノックダウンした明奈の胸にツインテールの少女は嬉しそうに頬ずりしている。


「ヒューッ!なんだいあの幼女は!」

「プリケツの絶傑!」

「まったく、小学生は最高だぜ!!」

「おねロリキタコレ!」


 新たな美少女とキマシタワーの供給に、先ほどまで怠惰なストライキをしていたFクラス生徒たちも色めきだつ。愛くるしい年下の美少女に良いところを見せたいという欲望が原動力となり、ウェイターとして動き回る。1人の幼女がFクラスを救ったのであった。


「葉月!?いったいどうしてここに?まさか自力で来たの?」

「バカなお姉ちゃんに会いに来たのです!なんてったって葉月のお嫁さんですから!」

「うぇぇっ!?また私なにかやっちゃった!?」


 知らないうちに小学生女子に嫁扱いされ困惑気味の明奈。だが、悪友たちは冷ややかな眼で見下している。信用がミリほどもないのは日頃の行いのせいである。


「まさか小学生に手を出すなんてな。救いようのないクソバカゲロカスゴミ女が。恥を知れ」

「汚らわしい。歩く性犯罪者め、世のためにも早く自首するのじゃ」

「…………イエスロリータ、ノータッチの精神を忘れたケダモノ」

「ただ10年ぐらい先に生まれただけなのに……。この地球の"億"のつく年齢から考えれば、10年なんて誤差もいいところでしょ」

「そうなのです!バカなおねーちゃんと葉月の愛を、年齢では縛れないのです!」


 一方で、絶望に叩き落とされたのが明奈スキーの2人だ。とくに美波は妹の登場で再起動したというのに、再びブラックアウトしてしまった。


「冗談ですよね?明奈ちゃんはロリコンさんなんかじゃないですよね?不倫なんかしていませんよね?」

「どうしてなの?どうしてアキはウチの心を何度もズタズタにするの?」

「…………やはり暴力系ポニーテールは負けヒロインの証……カハッ!」

「なるほど……つまりポニテは絶対に正ヒロインになれない、物語の添え物。いわば刺身のツマってワケね。バーロー」


 なんでや千棘は完全勝利したやろ!

 オタク特有の失礼発言に対して地獄突きが飛ぶ。これには康太も一発KO。勝者となった美波は血涙を流しながら、気絶した康太を教室の隅へと勢いよく蹴飛ばした。ポニテの娘かわいそう。

 なお、したり顔でカスみたいなことをほざいた青いスーツと蝶ネクタイのクソガキは処刑を免れている。幼い少年・少女、動物に対する暴力表現は世の中的に厳しく制限されるためだ。西欧的人権意識に救われたな、小僧。

 そんなスラム的イベントを華麗にスル―して、明奈は注文の品を配膳した。提供された料理のあまりの美味しさに満面の笑みを浮かべる葉月。ほほ笑む明奈。なるほど、確かに歳の差夫婦に見えなくもない。


「うーん!デリシャスマイルー!」

「肉まんおいしおいしだねぇ。葉月ちゃんはピンインが好きなんだね?」

「バカなお姉ちゃん。葉月が食べたのはマントウでしたよ?」

「やばっ……オーダーミスしちゃった」


 餡の入っていない饅頭マントウと中華まん饅頭バオズを間違えるバカ女なのであった。ちなみに、ビンインは焼売のことを指す。徹頭徹尾、間違いだらけである。

 どうしようもないバカさで、高校生の威厳を示すどころか、優秀な小学生にボロ負けしてしまう明奈。君は小さな優等生、僕は大きな劣等生。年だけ重ねても優秀になれるわけではないのだ。

 才女・葉月に諭され、恥ずかしさのあまり膝をつく明奈。そんな無様な彼女を取り囲んだ悪友たちは、下衆な表情で揶揄する。


「ッカー!小学生に負ける高校生とかおりゅー???」

「…………全高校生の恥さらし。腹を切って詫びろカス」

「まったく救いようのない愚か者じゃな。いやぁ~乱世乱世!」

「なんかおかしくないですか?みんなは違和感を感じないですか?こんな風潮に絶対に負けたくない。この私が負けるはずがない」


 これみよがしに煽り散らかしているが、彼らも何が何だかわかっていない。とどのつまり全員、小学生以下のお頭なのだ。そんなバカたちに亮が声をかけた。


「おう坂本。せっかくだから吉井や島田たちと他クラスの出し物でも見てこいよ。料理とかは俺たちがやるから大丈夫だぜ」

「サボれるのは俺としても有難いが、良いのか?」

「気にすんなよ。てか、島田姉を連れて早くどこかに行ってくれ。このままだと中華喫茶の統括マネージャー兼FFF団の団長としての俺の威厳が……」


 後半ブツブツと独り言をこぼしているが、つまるところ亮が喫茶店を支配する上での邪魔者を追い出したいようだ。何とも小物臭い浅薄な思考だが、お言葉に甘えて明奈たちは葉月を連れて他のクラスの出し物をまわることにした。


「うわぁぁぁあッ!オレの手が勝手に料理を口に詰め込もうとしてくるドン!こんなのおかしいザウルス!」

「ゴルゴンゾーラ、ペペロンチーノ!ワターシの身体なのーに、まったく制御が効かないなんーて、ありえないノーネ!」

「もう食べたくないのに、自分の意志とは無関係に手が動くでハックツ!」

「シャッシャッシャッシャー!オレの料理は知らず知らずその味覚が脳を刺激し不足している栄養を体が欲しがるようになるんだ!本人の意志とは無関係にな!」


 何やら助っ人料理人がトラブルを起こしているようだが、無視することにした。きっと亮が何とかしてくれるはずだ。


「そういえば吉井よ。姫路と恋仲というのは事実なのか?何やらクラスメイトたちが騒いでおったのじゃなが」

「どぅぇ!?全然違うよ!何そのフェイクニュース!」

「「は?」」


 途中、瑞希と美波が底冷えするような低音ボイスで威圧してきたが、とりあえず百合な誤解は解けたようだ。


「そうなんだふーん。なーんだウチってば勘違いしてたわ」

「え、なになに。いったい何があったの、瑞希ちゃん」

「つーん。知りませんよーだ。明奈ちゃんのバカ、唐変木」

「は?可愛すぎかよ?」


 キマシタワー!


・・・・・・・・・


 色々なクラスの出し物を見て、葉月とともに清涼祭を満喫する一行だったが、2年Aクラスの前でひと悶着があった。


「おかえりなさいませご主人様!ハートフルカフェへようこそ!」

「わりぃ、俺帰るわ」

「なに言ってるの雄二ってば!さぁさぁ!翔子ちゃんが待ってるんだから早く行くよ!」

「お主に日本男児としての誇りはないのか!女子が怖くて尻尾を撒いて逃げるなんて、いやはや無様が過ぎるのう!」

「うるせぇ黙れ殺すぞ」

「いいじゃない!翔子が待ってるわよ!」

「そうですよ!翔子ちゃんの可愛い姿を見ないなんてもったいないですよ!」

「だまれだまれだまれ」


 天敵である翔子のいるAクラスから逃げようとする雄二を、明奈と秀吉が引き留める。先ほどの恨みを今ここで晴らそうというわけだ。

 滝のように汗を流してゴネる雄二だが、恋バナに飢えた美波と瑞希の加勢により強引にAクラスへと押し込まれていく。そんな教室の入り口でのいざこざに、近くで待機していた愛子が抗議する。


「ちょっとちょっとー!いくらボクが可愛いからって騒がないでよねー」

「…………工藤愛子か。ヴィクトリアメイドの奥ゆかしさが感じられない。人選ミスだな」

「とか言っちゃってー。ボクのメイド姿にムッツリーニ君もメロメロなんでしょ~?」

「…………自惚れるな。俺はお前に興味などみじんもない」

「は~!?なにその態度!ボクを崇めて信じて祈ってよ!」

「…………この邪神がッ!」


 夫婦みたいな掛け合いをしている愛子と康太なのであった。クドムツ流行れ!

 そんな2人を尻目に、長いスカートをはためかせながら黒髪ロングの美少女がお辞儀をした。雄二の幼馴染であり天敵、明奈の親友であり自称旦那様、である翔子だ。


「……日本には世界に誇れるものが2つあります。それはレクサス、そしてメイド。共通するのはおもてなしの心」

「あ、翔子ちゃん。げんきしてたー?すっごく似合ってるよ!可愛い!」

「……ありがと明奈。雄二はどう思う?」

「………………あー、好きな奴は好きなんじゃね?知らんけど」

「その受け答えは0点だよ雄二」

「まったくもってダメダメね」

「坂本君、失望させないでください」

「……これが雄二なりの愛情表現だから仕方ない。ただ紳士としては落第点。まるでダメな男」

「うるせぇうるせぇうっせぇわ」


 誰も嬉しくない雄二のツンデレを酷評しつつも、翔子は一行を席へと案内してくれた。メニュー表を広げて商品を1つ1つ説明する。


「……なお当店ではメイドからご主人様にクイズを出題いたします。正解だと割引、不正解だとペナルティがあります」

「どんなペナルティになるのじゃ?」

「……こちらの婚姻届に坂本雄二のサインと捺印をいただきます」

「わぁ!じゃあ実質ノーダメですね!」

「おい姫路!どう見ても俺が致命傷を負うだろうが!」


 謎のローカルルールを出してきた翔子に、雄二は怒声を上げる。だが、何を言おうとAクラス内では翔子がルールだ。未来の旦那様のツッコミを無視してクイズを出題する。


「……では問題です。第2回ポエニ戦争でハンニバルが率いるカルタゴ軍を破った共和政ローマの将軍の名前は?」

「うーん、スキピオ・アフリカヌスかな?」

「……正解です、お嬢様」

「えっ!?アキったらいったいどうしたの!?」

「すごいです明奈ちゃん!」

「さすがは葉月のお嫁さんです!」

「くっきりした姿が見えているわけではないけど、朧気ながら浮かんできたんです。スキピオ・アフリカヌスという名前が」


 サラリと回答する明奈を褒めて持ち上げる美波たち。さすがです明奈様。これぞ無双系主人公の醍醐味である全肯定ヒロインたちによる全身全霊のヨイショである。

 とはいえ、文月学園で最悪のバカ女の明奈がクイズに正解できたのは前代未聞のことだ。雄二たちはバケモノを見るような眼で、明奈のことを訝しげに見つめた。


「いや、いきなりそんな名前が思い浮かぶなんてお前どうかしてるぞ?頭おかしいんじゃないか?」

「…………見ろ、鳥肌がこんなに」

「わしなんて鶏そのものになってしまったのじゃ」

憎悪ダークフォース


 これも翔子の教育の賜物だ。時間を見つけては明奈に勉強を教えているので、バカ女の学力も少しずつ上がっているのだ。とくに世界史、日本史などの暗記系科目ではかなりの成果が上がっているという。

 それはさて置き。明奈たちは極上のクラス設備でレベルの高い食事やドリンクを楽しんだ。お腹も膨れたタイミングで、イベントの宣伝をするため明奈たちのテーブルへと愛子がやってきた。


「もうすぐ妖精さんのダンスの時間ですよ!さ、ご主人様も一緒にモエモエキューン!」

「もういい。俺は帰らせてもらう」


 営業モードの愛子がウィンクをしながらアピールするが、一刻も早く雄二は帰りたい。1人立ち上がると出口へと向かおうとした。

 だが、そうは問屋が卸さない。どこからか取り出してきた身長大のモーニングスターを翔子は勢いよく振り下ろした。爆音とともに凶器が床を抉り、Aクラスのピカピカのタイルは一瞬にしてヒビだらけになった。


「……いやですわご主人様。ここは私たち妖精とご主人様のお屋敷じゃないですか」

「ゆ、ゆゆゆゆ雄二ッ!お出かけって言わなきゃッ!」

「おいバカ!イカれた脅しに負けるな!」

「……まぁ、仕方ない。雄二のサインと捺印はまた今度いただくことにする」

「そんなこと未来永劫あり得ないぞ」

「……雄二は素直じゃない」

「はっ。言ってろ」

「あの、翔子ちゃん?もしかして婚姻届って2枚ありませんか?」


 本来、届出人による捺印は必須ではない。勝手に書類を書いて役所に提出せず、敢えて雄二からの承認を求めるあたり、翔子も恋する乙女といえよう。可愛い。

 それはともかく、瑞希の言葉に明奈と雄二はしげしげと婚姻届を見た。確かによく見ると翔子の婚姻届は書類が2枚重ねであり、その間にはカーボン紙が挟まっている。


「……瑞希は鋭い。こちらは吉井明奈と坂本雄二の婚姻届がセットになったものになります」

「「オロロロロロロロー!」」

「ちょっと翔子!あんたの特級呪物のせいで、アキと坂本がマーライオンみたいになってるじゃない!」

「想像しただけで嘔吐するとは、こやつらどんだけお互いのことが嫌いなんじゃろうか」


 明奈と雄二はお互いのことを嫌っているわけではない。ただ恋愛感情を抱くのは生理的に何が何でも無理というだけだ。それこそ想像するだけで蕁麻疹が出るほどに。無理やり結婚でもさせられようものなら、2人とも泣きながら死を選ぶだろう。


「そ、そもそも!日本では重婚はできません!」

「……雄二と私が結婚して離婚。直後に雄二と明奈が結婚して離婚。私と明奈で交互に雄二との結婚・離婚を繰り返せば、実質的な重婚が可能。これぞ詭弁の刃、無限重婚編」

「アンタ頭イカれてんじゃないの?」

「だ、代表……?どうしてそんな邪悪な永久機関を……?」

「……愛する旦那様と嫁のどちらかを選ぶなんて私にはできない。だから、スマートに両立させる」

「あー、うん。いやぁボクってば勘違いしてたよ!代表って実はイカれてるんだね!」

「……?」


 愛子は引きつった笑みを浮かべて認識を改めた。霧島翔子という女は、模範的な優等生であると同時に、サイコでヤベー女である、と。

 知らぬ間にクラスメイトにドン引きされた翔子だが、暴走は止まらない。


「……清涼祭の2日目に行われる試験召喚大会では、優勝者の夢を如月コーポレーションが必ず叶えるらしい」

「翔子ちゃん!?まさか……!?」

「……私が優勝したら明奈と雄二の3人で一生添い遂げられるような素敵グッズを作ってもらう」

「それはいったいどんなシロモノなんだ」

「……浮気をしたら爆発する結婚指輪。死が私たちを分かつまで、おそろっち」


 ちなみに翔子の浮気判定は、自分以外の女性を3秒以上見ること、である。

 厳しすぎる条件に明奈と雄二は絶叫する。


「そんな闇のおそろっち嬉しくないよ翔子ちゃん!」

「……別に他の女を視界に入れなければ爆発しないから安心。日常生活に支障はない」

「ふざけんな!支障しかねぇよ!普通に生活できねぇだろうが!」

「……私以外の女をどうして見なければいけないの?必要ないでしょ?」


 コテンと首を傾げた翔子がハイライトを失った瞳で見つめてくる。人の理を超越した宇宙神話的な体験に明奈と雄二はSAN値チェックである。こいつ……無理やりにでも止めないと確実にやる!反目し合うことも多い明奈と雄二の心は強大な敵を前に1つになった。


「……どうしても嫌なら試験召喚大会で私を倒せばいい。力無き者が得られるものはない」

「上等だよッ!てめぇの気色悪い計画なんぞぶち破ってやる!首洗って待ってろよ翔子!」

「……うん。待ってる。明奈と一緒に、結婚式場で」

「「オロロロロロロロー!」」

「二人ともまた吐いてるけど、大丈夫なのかしら?」

「これは完全にメンタルで負けておるのう」

「明奈ちゃん……」


 そんなこんなで決着は2日目の試験召喚大会へと持ち越された。

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