笑いの放送

カービン

笑いの放送

 最近の話なんですが、ある学校の生徒が謎の突然死を遂げたそうです。


 原因は教えてくれなかったのですが、噂では家の中で自殺したとか、両親に殺されたとかなんとか言われています。

 まぁ、証拠もないただの噂話なので、真に受ける人はいませんでした。


 そんな中、死んでしまった生徒のことで酷く落ち込んでいる生徒がいました。

 その子は死んだ生徒と唯一の親友で、学校の中はもちろん、登下校の時でも一緒に暮らしていました。

 さらに、家も隣だったのでしょっちゅう遊びに行ったり一緒に宿題をこなしたりしていました。


 そんな唯一の親友を失い、さらに死因もろくに教えてくれなかったもんなので、そりゃあもう気分はどん底に落ちきっていました。


 そんな彼を一番に心配していたのが、母親です。

 母親は息子の親友が死んだことを知っているので、息子が落ち込んでいる理由も自ずと分かっていました。


 そんな母親は息子を元気づけるために、一緒にテレビを見ることにしました。

 息子に見せた物はお笑い番組。さらに、その番組には息子の大好きな芸人も出演する物でした。


 一緒のソファに座り、目の前のテレビを視聴しました。


 しかし、息子は終始クスリとも笑わず、そもそも番組を見ているのかも怪しい様子でした。

 息子の大好きなはずの芸人が登場しても、死んだ目をして眺めているだけでした。

 そして番組が終わると息子は、ごめん、とだけ言って自分の部屋に戻っていきました。


 深夜遅く、母親は何かの物音を聞きつけて目が覚めてしまいました。

 その物音をよく聞くと、どうやらテレビがある部屋から鳴っているようです。

 恐る恐るその部屋の前まで行くと、その物音の正体が分かりました。


 それは、息子の笑い声だったのです。


 不思議に思った母親が部屋のドアを開けると、奇妙な光景がありました。

 そこには、テレビを見ながら笑っている息子の姿がありました。


 しかし、テレビの電源は切れています。


 要するに、息子は真っ暗で何も写っていないテレビを見ながら笑っていたのです。

 母親は心配になり、息子にどうしたのかと訪ねました。


 すると、息子はさらに大きな声で笑い始めたのです。


 これは異常だと感じた母親は、すぐに病院に電話をかけました。

 受話器から、どうされましたかと聞かれた母親は、息子が笑い始めてて止まらないんですど事情を説明し始めました。



 すると突然、笑い声がピタッ、と止み、家の中は静かになりました。

 母親が息子を見ると、息子はソファに座ったまま動いていませんでした。

 母親は電話の応答を無視して息子に近づくと、



 笑顔のまま死んでいました。




 息子の死因は、笑い過ぎによる窒息死でした。


 母親は唯一の息子を、こんなにも不可解な死に方で失ってしまったことで、そりゃあもう気分はどん底に落ちきっていました。

 息子の笑顔を見ることが生きがいだったのに、その笑顔によって死んでしまったことがあまりにも衝撃的だったそうです。

 母親は笑顔を無くし、ベットで眠る日々を送っていました。


 深夜遅く、母親は何かの物音を聞きつけて目が覚めてしまいました。

 その物音をよく聞くと、どうやらテレビがある部屋から鳴っているようです。

 恐る恐るその部屋の前まで行くと、その物音の正体が分かりました。


 それは、息子の笑い声だったのです。


 不思議に思った母親が部屋のドアを開けると、奇妙な光景がありました。

 そこには、笑っている息子の姿が写っているテレビがありました。

 母親は奇妙にも思いつつもソファに腰掛け、そのテレビを見ました。


 テレビには、かつていたはずの息子の姿がありました。

 息子はテレビの中で、笑顔で、元気に笑っていました。

 いつまでも、いつまでも笑っていました。



 そんな様子を見ていた母親も、



 一緒になって笑い始めました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

笑いの放送 カービン @curbine

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ