#34 ゴブリン掃討大作戦

 まず相手にしたのは、盾を持ったゴブリン。ゴブリン達はそれぞれ持っている武器が違うので、恐らく集団戦をおこなうだけの知能があると思われる。とするなら、最初に盾役を潰してしまえば、後は守りの手薄になった集団を、スピードで撹乱かくらんするだけ。俺がもっと能力のコントロールを身につければ、いずれはゴブリンくらいならいつでも瞬殺出来るようになるかも知れない。


 とにかく、今は今出来ることを確実にこなすのみ。盾役のゴブリンの背後に素早く近づき、脳天にバールの一撃をお見舞いしてやる。盾を持ったゴブリンは全部で3体。あまりスピードに頼ってしまうと配信に映らなくなってしまうので、一撃離脱の戦法で、1体ずつ確実に仕留めて行った。


 盾役がいなくなたところで、八尺様由来のパワー押しの出番である。ゴブリン達が棍棒などの武器でこちらの攻撃を防ごうとするが、バールの頑強さと、八尺様のパワーの前では無意味に等しい。棍棒をへし折りつつ、ゴブリンにも打撃を加え、1体、また1体と、数を減らして行く。


 時折、少し離れた距離から矢が飛んで来ることもあったが、そこはターボばあちゃん由来の素早さで回避。ただ素早さが上がるだけでなく、動体視力や反射速度なども上がる辺りが、非常に便利と言えた。


 全部で10体ほどまとまっていたゴブリンを一掃し、撮影のために散っていた3人を呼び寄せる。撮影の結果を確認するためだ。


「どうだった? 上手く撮れてるかな?」


 何せ、今回使用しているのは、ウェアラブルカメラと言う新しい撮影機器。使い慣れていない道具を上手く扱えているかと言う点は、どうしても気になる。


「あたしの方は問題ないわね。と言っても、メインの撮影はターボのおばあちゃんだったし、あたしはサポートに徹した感じかな」

「儂ゃ言われた通り、能力を使いつつお前さんの姿を追っていただけじゃ。上手く撮れているかはわからん」

「ぽぽぽ。ぽぽぽぽ、ぽぽぽぽぽぽ(その点は心配ないですよ。配信画面も確認していましたが、ちゃんと視聴者の方にも見える速度で移っていました)」


 どうやら、そのあたりの確認も、八尺様がしてくれていたらしい。やはり気の利くお姉さん的ポジションなだけはある。


「あ、奥のフロアから誰かが大勢入って来た。たぶんゴブリンの群れ」


 トイレの中なら万能である花子さんが、そう口にした。当然ながら、このダンジョンにも簡易トイレは設置しているので、花子さんからするとトイレ判定。その彼女から侵入者があったと言う報告が上がったのなら、これは正確な情報として信じるに足る。


「各員、もう一度散開! ゴブリンの相手は俺がする!」


 3人が頷き、再び方々へと散った。


 俺は開けた場所に陣取り、ゴブリンの接近を待つ。少し前なら、これほど心穏やかではいられなかっただろう。しかし、今の俺には怪異化という能力があるし、何より頼れる仲間が存在する。やられるつもりは毛頭ないが、もしやられかけても、仲間が助けに来てくれると信じているからこそ、こうして大量のゴブリンの接近を前にしても、落ち着いていられるのだ。


 ゴブリンの怒りに満ちた声が聞こえ始める。仲間をやられた報復なのだろう。彼等の言葉が理解出来る訳ではないものの、そこに怒りの感情がこもっているのは間違いない。向こうからすれば、俺達こそ平和を脅かす侵入者。その点に関して、言い訳をするつもりはない。


 それでも、俺には俺の目的があって、ここにいるのだ。倒しても一定時間でリポップするモンスターにかける同情は、生憎と持ち合わせていないのである。


 俺を取り囲むゴブリンの群れ。その数は、先ほどとは比較にならないほど多い。最前列には盾役が壁を作るように並び、その後方に主力である棍棒部隊。更にその後方には弓矢で武装した集団が控え、俺を狙っている。


 ゴブリンが持っている装備は、どれも木製かつお粗末なものだが、油断をすれば怪我だけでは済まない。降り注ぐ矢の雨をかいくぐりつつ、俺は正面の盾役達に向って、ありったけのパワーを込めた一撃をお見舞いしてやった。

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