助太刀
不意に鋭い音が風を切った。
硬いうろこで弾かれたが、何者かが放った矢は魔獣の注意を引くことには成功した。巨体の動きが止まる。
どこから飛んできたのだろう。森に火の手が回っている以上、隠れる場所などそうはないはずだが。
「カロン、無事かっ!」
魔獣の隙をついて間に転がり込んできたのは、ルドガーだった。剣を二本持っている。とすれば、恐らくあの正確な射撃はフロストだ。
「使え」
カロンに片方の剣を投げると、残った方を構えて油断なく魔獣の動向を探っている。カロンは二度ほど軽く剣を振って手になじませたあと同じく魔獣の方を向いた。
「ありがとう、ルドガー」
「感謝なら閣下に。それから――いや、これはあとでいいか……」
「こんな場面で濁されるとすごく不吉なかんじ」
素直な感想を告げると、ルドガーはちらりと視線だけをカロンに向けて舌打ちした。
「いや、だが本当にあとで――」
「来る、気をつけて」
「聞けよ!」
言いながらも二人は別々の方向に飛びすさった。魔獣の尾がその場所をしたたかに打ち付ける。轟音とともに
「ちなみに言うとね、カロン。その魔獣の牙はかすっただけでヒトには猛毒だ。気をつけるといい」
少年が愉しげに言った。
「また毒?」
「また? ああ、そういえば『ムーンドロップ』は解毒されたんだっけ。ああいう運任せの作戦は美しくなかったね。ゼフィアもどこに行ったんだか」
カロンは目を見開いた。この少年はたしかに今「ムーンドロップ」と言った。なぜ、カロンがその毒に侵されていたことを知っている? 疑問を口にする前に魔獣の牙が迫る。すんでのところで剣を噛ませ、力まかせに弾き返した。
「知りたいだろうから教えてあげるよ。あの薬を作ったのは僕だ」
「……!」
「君がカロンになる前に殺したかったんだけど……やっぱり最後までちゃんと監督しておくべきだった。反省反省!」
少年に気を取られたカロンに、ふたたび魔獣の牙が迫る。ルドガーを相手取っていたが、経験に裏打ちされた確かな剣筋に近づくことができないまま標的を変えたのだ。
「カロン!」
「大丈夫」
カロンは走り寄ろうとするルドガーを制止した。
目を細める。魔獣の瞳に映る炎のゆらぎさえはっきりと分かる。
手に持った剣を、魔獣の
ぽかん、としているルドガーを目端にとらえて、カロンは息を吐いた。フロストの矢でわずかにはがれたうろことうろこの間。そこを起点に切断したのだ。
ぼとり、と重たい音がして、魔獣の頭が落ちた。何が起きたのか分からないでいるのか、身体から離れてしまった頭部がチロチロと舌を出している。
「うーん。まだ弱かった?」
「それで」
カロンは地面に剣を突き刺して、少年に向き直った。
「『ちゃんと説明してくれなきゃ分からない』んだけど、どうして私を殺そうとするの。他の人を巻き込んでまで」
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