第2話 思い出の木「寿」と別れ
しばらく日数がたった頃、私の家に人質にされていた子の両親が謝りに来た。正直10歳の私にでもこの家族が謝る必要はない。というのはわかった。
私はその日の夕方、不審者が欲しがっていた村の木「寿」を見に行った。
「なんで、この木が欲しかったんだろう、、」
この木には本当にたくさんの思い出がある。
私が小学校1年の頃、人見知りが激しくてなかなか友達が出来ず悲しんで寿の下で泣いていたことがある。その時、歩が「どうしたの?」と聞いて話しかけてくれた。
「あぁ、その時初めて歩とまともに話したなぁ。」
人見知りが激しすぎて、生まれた時からの幼馴染の歩にさえ人見知りをしていたのに今みたいにまともに話ができるようになったのはあの時話しかけてくれたおかげだ。
その時から歩とはここでよく遊んでいた。事件の起こる前日もかくれんぼしたりして遊んでいた。
「地域の人の大事な木。歩との思い出が詰まった大事な木。これを渡せる人は誰もいないよね。」
そんなことをふと呟いていると、
「おい!琴音、ここで何してんだ。早く家帰れ。一人で夕方に出かけて良いって誰が言ったんだ。」
お父さんは、お母さんが死んでから酒癖が悪くなり飲んでは飲んで、私に暴力を振るうようになった。
「お父さん、、ごめなさい。どうしてあの犯人がこの木を欲しがったのか知りたくて、、」
「お前、、その話には触れるなって言ってんだろ、いい加減にしろよ」
「ごめんなさい。本当にごめんなさい。今すぐ家に帰ります」
しばらくお父さんに暴力を振るわれる生活が続き、痣も増えてしまい学校には行けなくなった。この痣が人にばれるのも時間の問題だ。
(ピンポーン)
ある金曜日の昼間、玄関のチャイムが鳴った。
本当は居留守をしなくてはならない決まりだが、家のインターホンをみると歩が映っていたので長袖の上着を着て痣を隠し玄関を開けに行った。
「歩、、久しぶり。」
歩は私にあった途端いきなり私の腕を掴み必死に隠していた洋服の袖をめくった。
「やっぱりな。」
「黙ってて。ごめん。」
「学校に来ていなかった理由はこれか?」
「うん。」
「とりあえず、これ配布物とか。今日一学期の終業式だったから。」
「あのさ。悪いんだけど、もう1人人連れてきたから合わせていいか。」
「え、それは、ちょっと」
「ごめん。俺これ以上琴音に傷ついて欲しくない。すいません。もう来てください。」
「え、ねぇ、歩。ちょっと」
「君が琴音ちゃんかな?初めまして。いやお久しぶり。乙幡交番の横川です。」
「ごめんなさい。体調悪いから今日は帰って。。」
「ごめんね。本当はそうしたいんだけど歩君から全部聞いちゃったんだ。ここ最近というかお母さんが亡くなってから毎日毎日夜遅くまで怒鳴り声とやめてという声が聞こえるってね。」
「だから何だっていうんですか。私の家じゃないと思います。」
「じゃ、この痣はどうしたのかな?」
「それは、」
「少し家上がらせてもらっていいかな?」
「…」
「琴音?どうした?」
「…」
「琴音ちゃん?大丈夫かな?顔が真っ青だよ」
「痛い。」
「どこが痛いのかな?痣のある腕かな?それとも足?」
「…お腹。」
「ごめんね。少し服の上から触るね。」
「痛い。」
「ここ痛い?骨折れてるかな。もしかしてここもお父さんに蹴られたのかな?」
「うん。」
「そっかそっか。今までよく耐えたね。お巡りさんと一緒に交番に行こうか。」
「うん。」
それからしばらくして、私は複数個所骨折していたので病院に入院することになった。退院後は児童養護施設に預けられる予定だ。私に暴力をふるったお父さんは虐待で逮捕された。
再びあの場所で… @ryukusa
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