第3話 ダンジョンはとても綺麗だった

おばあちゃんが腕を振ると恐竜が放物線を描くことなく飛んでいく。

遠くで衝撃音とカエルが潰れたような声が聞こえた気がした。


「おばあちゃん、こっち」

僕の声に気付きおばあちゃんがこっちを見る。

振り向くときに大きく外に手を振ったときに指先がキラキラしていたような気がする。


「よかった」

優しい笑顔でおばあちゃんが近づいてくる。その向こう側に足を振り上げたり、横に振ったりして歩いている甚平姿の変なおじいちゃんが目に入る。


「大丈夫だったかい?」

僕の前に屈んで心配そうにのぞき込んでくる。

「うん、大丈夫。大丈夫だよ」

助かった、おうちに帰れる。心からそう思えた。

さっきまでさんざん泣いていた。けどそれ以上に大きな声を上げて泣いた。


「あら、あら。可愛いお顔が台無しだね」

手持ちの巾着から出したハンカチで顔を優しく拭いてくれた。

もう会うことができないおばあちゃんを思い出し、なんだか嬉しくなった。

ふふっとおばあちゃんも笑ってくれた。嬉しさがいっぱいになる。


「おう、見つかったか」

おじいちゃんがカッカと笑いながら歩いてくる。


「ええ、視たけど状態異常もないし、よかったわ」

上を見るとおじいちゃんと目が合った。

目付きが変わったように感じた後、一瞬顔が曇ったような気がした。

「たしかに状態異常は無いが、このくらいの子供にコレはひどいな」

何のことだろうと首を傾げる。

「爺さんはお黙り」

おばあちゃんの強い語気におじいちゃんが申し訳なさそうに頭をかく。

「すまん」

「坊やなら大丈夫さ」

「うん」

優しく頭を撫でられ、何のことかはわからないけどうれしくて頷く。


「ああ、いたいた」

よれたTシャツに着古したジーパン姿のおじさんが手を振って近づいてきていた。


「小鉄かい。遅かったじゃないかい」

「5階かそこら降りてくるのにどんだけ時間がかかっとるんじゃ」

「いやいや、ここは10階だって。それに何でじじいまでいんだよ」

おばあちゃんとおじいちゃんの呆れ顔に小鉄さんが両手を振って慌てる。

「儂か?買い物に行く途中に桃につかまってしまってな」

「もうそこまで広がっているのかい。それも階層が変わるってことは風船型かい?」

おばあちゃんが頬に手を当て困り顔になる。

「ああ、間違いないと思う」

「風船って?」

疑問を口にした僕を小鉄さんが優しそうな目で見る。

「ダンジョンの種類はしってるか」

「洞窟と塔?」

「ああ、その通りだ。後、空島とかもあるが今は作成を禁止されているからな」

「禁止?」

勝手にできるのに禁止?

「とりあえずだな。塔型はいきなり出来上がったものが現れるが、洞窟型は基本1層から下へ広がっていく。で特殊なタイプが風船型っていわれるヤツで上へも膨らんでいくんだ」

「お外に出るってこと?」

「そういう場合もあるが、俺とじじばばで階層のズレが出来てるから、膨らむとともに沈んでるんだろうな

「面倒臭いのう。BかCそこらかと思っとったが、このままいくとAも有りうるってことか」

「いやいや、待て待て」

小鉄さんがさらに慌てる。

「何言ってんだ。どう考えたってSだろ?」


「「はぁ?Sぅ?」」

そんな顔もするんだと思えるくらいビックリする2人


「なんだ、今どきの探究者はそんなにヒョロっちいのか?」

おじいちゃんの呆れ顔がアニメで見るような顔でなんだか面白かった。


「あんたらの基準で考えんな。確かに緩く?なったかもしれないが、さすがにこれでAはない。俺が下りてきている時点で十分Sだった」

小鉄さんが周りを見渡し、逆に呆れたといわんばかりの顔をする。


「あんた、最近怠けているんじゃないでしょうね?」

おばあちゃんが鋭い目付きで小鉄さんを見据える。


「はぁ?ふざけんな。これだから耄碌は、」

「「はぁ?なんて言った?」」

2人の言葉になんだかとても重たいものを乗せられてような感じがして体がこわばり動かなくなる。

小さな穴の向こうで感じた恐怖と全く違うとてもとても異質なものに抑え込まれ息ができなくなる。


「おい、じじばば! やめろ!!」

「ごめん、坊や」「悪い」

小鉄さんの声に2人がはっとする。

なんだか軽くなり、はぁーと大きく息が出る。呼吸ができる。


大きく息を吸うために上を向く。

満天の星空が目に飛び込む。

暗いけどとても澄んだ青色の夜空に白や黄色なんかの星がきらめいているように見えた。

周りを見渡す、ダンジョンの壁や床が星が煌めく夜空にに思え、夜空の中心に自分がいるように感じた。


「キレイ」


ダンジョンはとても綺麗だった。

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