第4話 降り積もる䨮

 店の外を覗くと目に飛び込んでくるのは雪だ。

昨日の夜からずっと雪がシンシンと降り続いている。

それだけの雪が降っていると当然、気温が下がる。

店内は凍るほど寒かった。

生憎本に載っていた暖房器具はまだこの世界に流れ着いていない。

今、熱を持っているのは店内に幾つがある淡い光を放つランタンだけだ。

酒でも飲んで体を温めようか……と思ったが丁度酒を切らしている。

外に行ったらあるのかも知れないがこの寒さだ。

凍え死んでしまうだろう。

こんな寒い時期に迷い込んでくる来客が居たら不運だろう。

僕は窓を見ながら思った。

これは止むことを知らなそうだな……おや?人影が見える。

どうやら不運な客が来てしまったようだ。

客はどんどん近づいてくる。

やがて客の全身が見えるようになる。

髪の色は水色、白いマフラーを巻いている。

服は普通の洋服で少女のようだ。

カランカランと音がなった。

客が入って来たみたいだ。


「いらっしゃいませ。」


寒かっただろう。ここは丁重にもてなしてやろう。


「雪って綺麗だと思わない?」


客は僕に聞いてきた。


「綺麗だと思いますよ。」


僕は答えた。

雪は冷たくて苦手だが、店内で見る分に関しては綺麗だと思う。


「じゃあ、降らしてあげる!」


客がそう言うと、急に雪が降ってきた。

店内にも関わらず。


「別に雪を降らしてくれと頼んだわけじゃないんだが……」


これは完全なる営業妨害だ。

だからこの少女はもう客ではない。

故に敬語は不要であると思った。


「良いじゃない。このままずっと雪を降らせて春を無くしてしまいましょう!」


少女はとんでもないことを言い出した。

ここは1つ教えてあげないといけない。


「良いかい?雪は儚いからこそ雪なんだ。だから永久に雪が積もってもそれは雪とは言えない。理由は、雪には䨮という異体字があり、彗は彗星の彗だ。彗星は一瞬で通り過ぎてしまって儚いだろう?だから永久に溶けない雪は雪とは言えない。」


「そうなの?知らなかった。」


店内の雪が止んだ。

どうやら止めてくれたらしい。


「ところで……ここはよろず屋なんだが何か買うかい?」


「今日はやめる。迷惑かけちゃったし。次来たら何か買うよ。でも、儚い命の私に次があるか分からないけどね。じゃあね。」


少女は帰っていった。

結局何がしたかったのだろうか……

少女が帰った後も雪は降り続いている。

辺りは銀世界だ。

彗は他にもほうきと読む事が出来る。

これは雪が降り積もった後はまるでほうきで掃いたかのように綺麗だからだ。

たまには雪と触れ合うのも良いかもしれない……





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