第3話 花見酒
店の周りは森に覆われているがその森の中で、一際目立つ木が1本立っている。
それは、ピンク色の花を咲かせ人々を魅了する。
桜だ。
僕はその桜の傍で花見をすることにした。
今日は店は休みにした。
どうせ誰も来ないのだ1日ぐらい良いだろう。
僕は酒を片手に花見を楽しむ。
本当はお茶でも良かったが
丁度美味しそうな酒が庭先に落ちていたのだ。
アルコールがまわると普段では考えつかないことも考えつくようになる。
僕はたまにしか飲まないが……
それにしても桜が綺麗だな。
これだけ花が咲いていても時が経ってしまえば全て散ってなくなってしまうのだ桜が人を魅了する力は花の数に比例する。
花が無くなれば桜の力もなくなってしまうのだ。
実際、夏に花見をするような人は居ない。
瞬間、突風が吹き荒れた。
突風に桜の花が攫われる。
どうやら、今年の花見は終わってしまったみたいだ。
だが、来年にはまた桜は力を蓄え、また花を咲かせる。
これが自然界の変わることのない輪廻なのだ。
花見は終わってしまったが酒がまだ半分以上残っている。
店で花見でもするか……
人が花見をする理由は桜の花の紅と白が混ざったピンクが目出度いと思ったからではないか……
つまり、花見は昔は祭りのようなものだったんではないか……
今では行事となってしまった花見が昔は祭りだったという事を想像すると、より花見を楽しめそうだ。
店で1人酒を楽しんでいると、カランカランと音がなった。
「あの……店は閉めてた筈ですが……」
僕は入って来た人に言った。
「あっ……そうでしたか……これはこれはすいません。ちょっとお酒の香りがしたので……」
酒の香りが店の外まで?
異常なほどの嗅覚……恐らく人間じゃない。
「でも……店は閉めてるんで。」
「おや、1人酒ですか?」
相手は聞く耳を持たなかった。
「1人酒ですけど……」
「私も混ぜて下さいよ。1人より2人で飲んだ方が楽しいでしょう?いや……私を人として数えて良いのか分かりませんが……」
やはり、人間じゃないらしい。
「人間じゃないんですか?」
「はい。私はお猪口です。」
お猪口か……稀にあるのだ。道具の姿形が人間に成る事が。
これには世界の常識と非常識が関わってくるがややこしいので説明は省く。
「はぁ……お猪口ですか。じゃあ良いですよ。一緒に飲みましょう。」
丁度、1人酒も寂しいと感じていたところだ。
その後、僕らは朝まで飲み明かした。
お猪口は朝になると、自分の世界に帰っていった。
いずれ姿形も元に戻るだろう。
今日は酒を飲みすぎて頭が痛い……今日ぐらい店を休んでも良いだろう。
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