第2話 雨降りの店内 後編
「この世界の事ですか……いいでしょう。」
僕はこの世界の事について話すことにした。
普段は話すことはないが今日はそういう気分だ。
「この世界は完全な世界じゃなく半端な世界です。」
「はい?どういう事ですか?」
客にはどうやら理解出来ないらしい。
つまり、そういう世界に住んでいたんだろう。
「見て分かる通りこの世界はとても狭く、小さいんです。」
「えっ?広いじゃないですか。森がとてつもなく広がっているじゃないですか。」
「そう。この店は森の中にポツリと建っているように見えるでしょう。ですが、それは幻です。世界が見せた幻想……森をずっと進むとお客様は元いた世界に戻れるでしょう。その地点が世界の端です。狭いでしょう?」
「良かった……帰れるんですね。」
客は安堵していた。
「もう聞きたいことはありませんか?それじゃあよろず屋店主としての仕事をしましょうかね……何かお買い求めの品はありますか?因みに僕のオススメはこの魔道具です。」
「魔道具?」
「おや?お客様、魔道具を知らないんですか?魔道具はその名の通り魔法の道具です。うちは何でも扱っているので品揃え豊富ですよ。」
「そうですか……でも何にも買いません。すいません、冷やかしてしまって……」
「構いませんよ……それがお客様の判断なら僕はそれに従います。」
客は帰っていった。
僕は客を見送った。
何時の間にか雨も止んでいたみたいだ。
まだまだ梅雨は早いのかもしれない。
そもそもこの世界の雨は別の世界の雨が流れ込んできたものなのだ。
別の世界の人々が梅雨入りしたと言わないとここには梅雨が来ない……梅雨が来たと僕が決めれない。
この世界は海に開いた穴のようなものなのだ。
穴には当然、水が流れ込む、この世界という穴には別の世界の情報、道具、人間が流れ込んでくる。
僕はこの世界と共に流れに身を任せれば良いのだ。
それが、この世界で生き抜くためのテクニックである。
自分で決める必要性は皆無だ。
雨によってできた水溜りを見つめながらそんな事を考えた。
水溜りに映る幻想的な森が雨上がりという事をより強く感じさせる。
ふと水溜りに左右対称の生き物が映り込んできた。
蝶だ。
蝶は書物によると不死、不滅の象徴らしい。
そんな蝶が飛んでいるという事は、この世界は永遠に不滅という事だろうか……
だが、これも別世界の人間が決めた事だ。
別世界の常識がこっちでは非常識となる可能性は高い。
あまり流され続けるのも良くないのかもしれない……
この世界独自の文化を作ってみるのも良いな……
その瞬間、爽やかな風が吹いた。
もう夏かな……
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