名もなきよろず屋
杜鵑花
第1話 雨降りの店内 前編
外は雨が降っていて窓に水滴が打ち付けている。
水滴は自身の重みに耐え切れずに下へ下へと落ちていく。
僕は店内で椅子に座りそれをずっと眺めていた。
憂鬱な雨の日はこうしているのが1番だ。
だが、物事にはいずれ、必ず飽きというものがくる。
そうなると人は別の事に集中しだす。
僕もその内の1人だった。
僕は店内をブラブラと歩き出した。
意味のない行動……というわけではない。
商品の管理も兼ねているのだ。
と言っても、この名もなき店には泥棒すら来ることもないが……
屋根に雨が打ち付ける音が聞こえてくる。
そういえば梅雨に入ったのだろうか……
僕がそう感じたという事はそうなんだろう。
結局のところ、そういうのは全て人間が決めるのだ。
人間が梅雨に入ったといえば梅雨になり、春になったといえば春になる。
大体がそうだろう。
人間が勝手に決めるのだ。
そうやって、どうでも良い事を考えていると、店の入口のベルがなった。
この音を聞いたのは何時ぶりだろうか……
それにしてもこんな雨が降っている時期に客が来るとは珍しいな……
おおよそ、意図せずに迷い込んできたといった感じだろう。
そうじゃなければ来れない、これが客の少ない原因だろう。
「いらっしゃいませ。」
客はずぶ濡れだった。
無理もない……これだけの雨なのだ。逆に濡れていないほうがおかしい。
「一体……ここは何処ですか?!」
客が僕に尋ねてきた。
「ここは名もなきよろず屋、お客様は何をお望みですか?」
これは初めて来店する客への決まり文句だ。
因みに、名もなきというのが名前ではなく、本当に名前がない、店に名前を付けたほうが良いだろうか……
「いや……店の名前じゃなくて……」
客は取り乱していた。
この店に初めて来た客は大体が同じような反応をする。
「まぁまぁ、1度腰を掛けて落ち着いて下さい。」
僕は客に椅子に座るように言った。
そして机を挟み、客の対面側に僕も座る。
お茶を机に置く。
「どうぞ。」
「あっ……ありがとうございます。」
客はお礼を言い、お茶を飲み始めた。
この店のお茶は僕が特別に調合したお茶っ葉を使って作っている。
リラックスさせるような優しい香りがする……これがこのお茶の特徴だ。
「大分……落ち着きましたか?」
「はい。お陰様で。」
「じゃあちょっと、話でもしましょうか……お客様も聞きたいことがあるでしょう?」
「はい。まず1つ良いですか?」
「何なりとどうぞ。お客様は神様ですから。」
「ここは何処ですか?いや……店の事じゃなくてこの世界の事です。」
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