第18話 抜き足、差し足、忍び足

抜き足、差し足、忍び足、抜き足、差し足、忍び足……。


心の中で呪文を唱えながら私は夫婦の寝室を通り、ケネス様の私室の扉の前に来た。時間は深夜。そろそろ官能の世界が始まってるはず。


《そんな変な歩き方しなくても、私が姿を消してあげてるのよ?》


確かにパティの魔法で私の姿は見えないし、存在も感じられないようにしている。だけど雰囲気ってものがあるでしょう?秘密の恋愛行為は覗き見るするのが常識。


そっと手を伸ばして、ドアノブに手をかける。


私室への扉は鍵がかかっていて開かない。


チッ!ケチな男だな!


「パティ……鍵開けて?」


《コーデリアは中が見たいだけだよね?じゃあ見えるようにしてあげるよ》


「うん、コルクくらいのサイズの穴でお願い」


《コルク?なんで?扉全体を見えるようにできるよ。しかも気付かれないよ》


「いいから、いいから!」


覗くことに意味があるんだ!堂々と見ても面白くない……いや、待てよ。ことと次第によっては、シアター感覚で大きく見よう!


扉に穴ができたので、そっと覗く。どうやら部屋にいるのは、ジュードとケネス様らしい。

話をしているようだ。ケネス様はソファに、執事のジュードは、まだ立ってるだけかぁ。

抱き合ってないとは残念だ。


「え?なぜ、今晩はアレンの予定だったはずだが?」


ケネス様の驚く顔が見える。


やはり今晩のケネス様のお相手はアレンだったのか。昨日おなかを壊して相手してもらえなかったジュードが、今日の相手だと思ったけど、違うみたいね。アレンも驚いていたわ。ジュードが加わったのかと。つまりジュード×ケネス様は最近ね。付き合いたては愛が激しいと聞く。

実に楽しみだ。


「アレンの話だと、私が今晩のお相手をすると……。いつの間にそんなことに?」


あら?ジュードが怒っているわ。もしかしてケネス様とジュードの関係は秘密だったのかしら?悪いことをしたわ。


「私にもわからない。アレンを呼び出せないか?」


「アレンは蟹を獲りに行くと言ってもう出かけてしまいました」


「蟹⁉あんなグロテスクなものは食べられない!悪魔の生き物じゃないか!」


「おいしいと聞いたそうです。アレンを雇う際に、どんなものを出しても良いとおっしゃったではないですか。諦めてください」


「ああ……まぁ、カブトムシの幼虫よりは良いか」


「ダンゴムシを食べた方が何を言っているんですか」


ケネス様がキッと睨んでもジュードは知らん顔してるわ。さすが攻め!その攻めっぷり最高です!

そしてこの流れでいくと、明日の夕飯は蟹料理!今からよだれが出そうだわ!


じゃなくて!

ジュードはここからどうやって攻めに持っていくのかなぁ~。まずは軽く言葉攻めからの~?


「どちらにしろ私はコーデリア様のお相手をする気はありません!」


んんんん?おやおや、ジュードさんったら何を仰りやがったの?私の相手?なんのこっちゃ。


「確かにお前だと困るな。髪は黒だし、目は緑だし」


「そういう問題ではありませんが……どちらにしろお断りします。それよりもコーデリア様を知ることから初めてください。他の男をあてがうのは分かってからでも遅くないじゃないですか」


「コーデリアがどれだけ素晴らしい人物であったとしても、私は彼女と夫婦生活をする気はない。だとしたら男をあてがうしかないだろう。ケリーが辞退し、アレンがいなくなった今、お前しかいないだろう。行ってこい」


んんんんんんん?どういうこと?ケリーとアレンはケネス様の恋人ではないの?私にあてがおうとしてるってどういうこと?あ!確か言われた!子供作れって言われた!まさかのその相手ってこと??


「今ご自分でおっしゃったじゃないですか!髪色と目色が違うと!」


「そうだな、確かに言った。私の親戚筋からふたり用意すると言ってたがそれらは?」


「明後日到着予定です。まぁ、家人を使うよりその二人を使ったほうが良いでしょう」


「ちょっと待ったーーーーー!!」

「え?コーデリア?」


「コーデリア様、いつの間に、しかもどうやって扉を鍵が……閉まっていたはずなのに」


ふたりの視線が集まる。だがそんなことはどうでもいい!聞くべきことを聞かなければ!

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