第17話 イケオジもアリよね?

ドアを開けて入ってきたのは、イケオジ。まごうことなきイケオジ。

黄金色の髪。群青色の瞳。ニカっと笑う口の中の白い歯が眩しいわ。


そんなイケオジが座っている私に近づき、ふわりとお辞儀をする。

やだ、所作がきれい!これはモテるわね!


「お初にお目にかかります。料理長をしていますアレンと申します」


あら……声までイケボ。低く響く良い声だわ。

料理長といえば、確か食の加護を持つ精霊と契約した人ね。料理人の衣装がとても似合うわ。ちょっと筋肉がムキムキだけど。


「お味はいかがですか?お気に召したでしょうか?」


「ええ、とても美味しいわ。特に海老のソテーは美味しかったわ」


「それはケネス様もお気に入りの料理です」


キランと光った目に……愛が見えるわ。もしかして……。


「ケネス様はあなたにとって良い主人なのね?」


「ケネス様に是非にと言われ、この地に来て3年が経ちましたが、この上ないほど良い待遇をいただいております。ケネス様は私が何をしても許してくださる。そこが今まで仕えたほかの主人にはありませんでした」


……。


え?まさかこの料理長もなの?ケネス様の恋人多くない?


でも前世の私の腐女子知識が語るわ。

古代ギリシャでは、権力者は多くの美少年を恋人にしたという。日本の戦国時代では男妾をもつことが武将のステータスで、小姓というかたちで侍らしていたという。前世での世界観ではあるけれど、とかく権力者は多くの愛人を持つわ。


となると、この国でもトップクラスのお金持ちであるケネス様に、恋人のひとりやふたりや三人いてもおかしくない。


かわいい系である庭師のテリーには、雇用主の権力を持って鬼畜のように攻め、

メス顔でありながら、S性質の執事のジュードには、獣のように攻められ、

イケオジで余裕たっぷりの料理長のアランに翻弄される……どのケネス様も悪くないわね。美形だとどれもありになっちゃうわ。


「あなたもケネス様がお好きなのね?」


「そうですね。ケネス様を生涯最後の主人にしたいと常々思っております。その為には多少の無茶ぶりも応えるつもりです」


「無茶ぶり?例えばそれはナニかしら?」


「ここでは言えないことでございます」

 

おお、群青色の瞳が熱を帯びて色っぽいわ。イケオジの色気半端ない!これだけ魅力と余裕にあふれた方がライバルだとテリーとジュードも大変ね。


「こんなにお相手が多いなんて思わなかったわ」


「さすがですね。もうお分かりとは……」


アレンがにっこり微笑むわ。

分かるに決まっているわ。だって腐女子センサーがばっちり働いているんだもの。


「あなたとテリーと、それとジュードでしょう?」


「じ……ジュードもですか?ケネス様は確かにジュードもと仰っていましたが、そうですか。ジュードも加えることにしたんですね?」


あら?もしかしてジュードのことは知らなかったのかしら?そう、ライバルが増えたんだもの。驚きよね?


「ケネス様も罪な方ね。他にもいるの?」


「そこまでお見通しとは……。慧眼、恐れ入ります。確かにあと2名ほどおります。確かケネス様の親戚筋の方とか……」


全部で5名?多くない?日替わり定食じゃないのよ?ケネス様!


この世界は1週間が6日の13か月のカレンダーだから、毎日やって1日休み。

絶倫でいらっしゃるわぁ。これは毎日真ん中の部屋に張り込まなきゃ!


「今日のお相手は……ジュードかしら?」


「あ――そうですね。私の予定でしたが、ジュードが入ったのならジュードからとなるでしょう」


「そう……わかったわ」


私がにっこりと微笑むと、アレンはハハッと笑い返してくれた。


戸惑う笑顔に愛が見えるわ。

本当は今晩、ケネス様をイケオジテクニックで翻弄する予定だったのね?ケネス様が『早く……お願い…………』って懇願しても、『まだだよ。もっと乱れて?』とか言って、ねちっこいプレイをする予定だったのね?

悪くないわ……むしろアリよね?


「そう言えば、蟹は食べないの?」


「かに……ですか?あの足が8本ある……毒があると古来から言われていますが、コーデリア様は食したことが?」


毒なんてないのに。でも確かに見た目のグロテスクさから、食べない国もあったと聞いた気もするわ。


「おいしいわよ。お刺身でも食べるし、茹でても、焼いても良いのよ。蟹みそは特に美味しくてね、あ、蟹みそって言っても脳みそじゃないのよ。内臓みたいなものだったかしら?独特な味がして私は好きよ」


あら?アレンの顔が好奇心の色に変わっていくわ。そういえば食の加護の持ち主は、食に対して好奇心旺盛だと聞いたわ。


「私としたことが……なんということだ」


わなわなと震えたアレンは「御前失礼!」と言って足早に部屋を出ていったわ。なにかしら?

まぁ、蟹が食べれれば、私は何だって良いわ。

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