第15話 趣味を聞かれるなんて、お見合いかしら?
ケネス様の横にスッと立つ執事から熱い視線を感じるわ。熱い視線……何かしら?もしかして嫉妬?仮初の妻に対する嫉妬かしら。
いいえ、違うわ。だって今、私を見て口元に笑みを浮かべたわ。つまり、あれは優越感の目!お前は仮初の愛されない妻。本当に愛されているのは俺!きっとそう言っているのね!
ああ、きっと今晩はあの執事がケネス様を攻めて、攻めて、攻めまくるのね!想像するだけで興奮しちゃう。早く夕飯が終わらないかな〜。美味しいからゆっくり味わいたけど、やっぱり食事より、BLよね?
「あ――、その、コーデリア嬢……じゃない、コーデリアの趣味はなんだ?」
ケネス様ったら、意味が分からないわ。なぜ今更そんな質問を?ああ、あれかしら?侍女達のことを聞いたから気を遣っているのね。
「趣味は……」
男性同士の愛する姿を見ることです!と言いたいけど、それは流石に言えない……となるとここは無難に……。
「野菜作りですわ」
「はぁ?」
「あら?ケネス様はご存知ないのですか?畑を耕して、種を蒔いて、そして……。
「そのくらい知っている!君は子爵令嬢であって、農家の娘ではないだろう!」
おお、上手いツッコミ!じゃなくて、どうもこれは貴族の令嬢の答えとしては駄目だったらしい。祖父母は貴族らしくない上に、身分に上下はないって考え方だったし、そもそも日本人だった私には身分とか意味不明だし。
うーん、ケネス様が私を怪しんでるわ。違う答えを言わないと……。
「じゃあ、機織り?」
「じゃあってなんだ!しかも機織りとはどういうことだ⁉︎」
「機織りをご存知ないのですか?縦糸と横糸を組み合わせて、機械でパタンパタンと……。
「そのくらいは知っている!だから君は貴族令嬢であって、職人ではないだろう!」
おお、また突っ込み。今度はイマイチね。
これも貴族令嬢としてはダメなのかぁ。お祖母様はとても上手だったけど……。
こうしてみると、祖父母は変わっていたのかしら?そう言えば、あのくそバカでどうしようもない父親が、『両親は変わり者で貴族としてふさわしくない』とか、すっとこどっこいな事を言ってたわね。ダメおやじの意見だと思っていたから、スルーしていたけど。
なんて考えに耽っている場合ではないわね。ケネス様がイライラしてるわ。
えーっと、他の趣味は……。
「では、刀剣作り?」
「と……とうけん?」
「そうですわ。鉄をどろどろに溶かして、カンカンと打って、シュシュと磨いて……。
「だから!君は子爵令嬢だろ!なぜ剣なんか作ってるんだ!」
うーん、同じパターンの突っ込みは飽きるわね。
剣作りはお祖父様の趣味で、私も一緒にやったわ。お祖父様の剣は丈夫で良く切れると有名で、幻の鍛治師作と言われ、欲しがる人も多かったのに。
お祖母様の作る服も同じ。地味な見た目に反して、最強の防護力を持ち、ほとんどの魔法を弾く幻の防具。
どちらも作った先から人にあげてたから、私の手元にはないけど、全財産を投げ打っても欲しがる人は多かったのに……。
なんて物思いに耽ってる場合じゃないわね。
ケネス様の目が怖いわ。怖くないけど。
私は嘘は言ってないのに。もうこれもだめなら、最終手段を出すしかないじゃない!
「他には……ポーション作りとか、エリクサー作るとか?」
「え……エリクサー!?幻の!?」
「幻?ただの栄養剤ですわ。畑に撒けば野菜がすくすく育つんです」
「はたけ……ああ、エリクサーという名前の肥料か……」
「いいえ、エリクサーですわ。飲めば無くなった腕でもなんでも元通りになりますから。ですがエリクサーは畑に撒けばすくすく育ち、更に栄養価の高い野菜ができるんです。活用法としてはありですのよ?」
「…………腕がはえる……」
あら?ケネス様ったら固まってしまったわ。
重要なのは腕がはえることじゃないのに、どうしてそんなことくらいで驚くのかしら?こんなこと、私がすんでいた田舎では、誰もが知っていることなのに……。
まぁ、でもそんなことより、この大きな海老のソテーが美味しいわ。前世でいうところのオマール海老かしら。たらば蟹とかずわい蟹とか食べないのかな?海老を食べたら食べたくなってきた。
「もういい!君が私とまともに話すつもりがないことは、良く分かった!ここで失礼する!」
ガタンと大きな音と共に立ち上がったケネス様は、大股で食堂から出ていくわ。
何がダメだったのかしら?私は嘘なんてついていないのに。
執事が私に一礼してケネス様の後を追いかけるわ。
追いかける彼の姿に愛が見えるわ。きっと、このままケネス様のお部屋に行って、愛を確かめ合うのね。それは激しい恋になるでしょう。だって昨日はできなかったのだもの。
私も部屋に戻ろうかしら?
悩んでいたら、ケネス様と入れ替わりで人が入って来たわ。
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