第13話 銀の丸い蓋の名前が分からない!

部屋に運ばれて来た昼食は普通だった。しかも侍女達も全員代わっていた。


更に……。


「ケネス様が夕飯はぜひ一緒にということです」


なぜか執事が満面の笑顔と共にやってきた。


どうやらケネス様が全快した嬉しさを隠せないようだ。愛ね。愛。


「前の侍女長と侍女達は?」

「解雇しました」


にっこり笑う執事の目の奥に光る狂気を……私は見逃さない。


やはり受けと見せかけて攻めのタイプ!

今晩はきっとケネス様を寝かさないのね!昨日できなかった分、攻めて、攻めて、攻めまくるのね!ケネス様が「もう無理だ……」って涙目で訴えても、「まだまだですよ。ケネス様、私の愛を受け取ってください」とか言うんでしょ!やだ、想像するだけで、ご飯が何杯も食べられそう!


「解雇した侍女達に今までのことを聞きました。私の監督不行き届きで大変申し訳ございませんでした。食事、洗顔を蔑ろにし、お風呂の用意もしなかった上に手伝いもなく、更にシーツの交換もしていなかったとか!職務怠慢にもほどがあります!」


そう言えば……お風呂のお湯はなかったわね。自分でやってたから気が付かなかったわ。


そう言えば……貴族は自分で身体も洗わないものね。いつも自分でやっていたから、忘れていたわ。


シーツは……気にしてなかったわ。1週間に1回で良くない?シーツの交換なんて。


「またお洋服の件も申し訳なく……侍女達が」


「ああ……」

直してもらったから良いの……とは言えない雰囲気ね。


「裁縫が得意だから、気にしないで」


「いえ、そういうわけにはいきません。しかもクローゼットを拝見しましたが、まるで娼婦のようなドレスばかり!侍女長に任せたのが失敗でした。午後からデザイナーを呼び出しますのでお好きなドレスをお作りください」


あなたとケネス様が愛しあう姿を見たら消えるから要らないわ……とは言えない雰囲気ね。


「ありがとう……楽しみにしてるわ」


それにしても男性から見ても娼婦の様なドレスなのね。侍女長はどんな思いであのドレスを選んだのかしら?ぜひ聞きたかったわ。まぁ、もう会うこともないでしょうけど。


「ではお食事をお楽しみください」

執事の……名前を聞き忘れたわ……が部屋を出て行っても侍女達は部屋にいる。


そう言えば、ご飯を食べる際には侍女が付き添うんだった。忘れていた。なんだかめんどくさいな!


《みんながいるから、ご飯が食べられない――》


うえーんとパティが嘆く。パティは大事な私の相棒。彼女と一緒に食べる食事は美味しいから、出て行ってもらいたい。


「ねぇ、わたくしはひとりで食事をしたいのだけど?」


「申し訳ございません。それは出来かねます」


新侍女長がふかーく頭を下げる。


そうよね、今思えば、食事に水もなかった。侍女のひとりが水差しを持っていることから、グラスに水を注ぐのよね?その横の侍女はティポットを持っている。つまり食事の後の紅茶があるのね。さらにその横の侍女は……ああ、絶対にケーキ持ってる!あのお皿の上に被さっている銀の丸い蓋!名前は分からないけど、とにかくその中はケーキでしょ⁉︎ケーキじゃなくてもスイーツでしょ!今までもあったの?それとも今回だけ?そこは分からないけど。ごめん、パティ!私はBLも好きだけど、甘い物も好き!


嘆くパティを他所に、私は食事を楽しんだ。

激ウマ……もう少しここにいようかと思ってしまった。

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