第11話 あるような、ないような。

「今朝の朝食は……これは……何かしら?石?」


《石じゃないよ。何ヶ月も放置したパン。コーデリアじゃないけど、次が楽しみになってきたよ》


何ヶ月前から用意したのかしら?パンってカビて、カビて、カビまくるとこうなるのね。カチコチの石みたいなパン。SNSがあったら拡散したい一品。


「サラダは、たんぽぽ?」

《そうね、たんぽぽの葉っぱと花ね》


食べることができると、前世で聞いたことがある様な、無いような。でもそこら辺に生えてるものをそのまま千切ってるから、苦いんじゃないかしら?どちらにしろ美味しくはないわね。きっと。


「そしてスープは、これはダンゴムシ?」

うっすいスープの中には、たくさんの団子虫が浮いている。これだけ良く捕まえたと、逆に感心する。


《コーデリアのご飯は侍女長が食べたから、またケネスのと入れ替える?》


「そうねぇ、バレずにできるの?」

《お安いご用!》


パティがテーブルに手を翳すと、ふわとろエッグベネディクトと、フルーツサラダ、そしてかぼちゃのスープと入れ替わった。まじで美味しそう!


「ケネス様は、さすがに今回は気がつくでしょう」


《そうね、昨日は見た目では分からなかったけど、今朝のは見れば分かるものね》


「しかも昨日はお腹を壊したみたいだし、慎重になってるはずよね?」


《普通はそうよね》

「そっかぁ、じゃあ良いか」


今日の洗面器に張られたのは熱湯だったし、毎日、毎回、いじめのネタが尽きないらしい。まぁ、まだ二日目だ。今日のランチがどうなるか楽しみだ!




◇◇





「ギャ………………」


叫びそうになったので、口を手で押さえた。

それは届いていた朝食を見たからだ……というかこれは朝食なのだろうか?


自室のテーブルには毎日朝食が置かれる。これは毎朝変わらない風景だ。それが今朝は……。


「タンポポのサラダ……」


まぁ、これは許容範囲内だ。きっと料理長が私のお腹を心配しているのだろう。良薬は口に苦し!苦くとも我慢だ。


「あと……これはなんだ?」


私の悲鳴の元であるスープの具をスプーンで掬ってみると、くるんと丸まった……これはやはりどう見ても昆虫?そして丸まった身体には足が……いっぱい……。


「え?これは……」


我が家のシェフは食に対して貪欲だ。いつだか、カブト虫の幼虫はクリーミで美味しいらしいと聞きつけて食べていた。その日の夕飯に出そうとしたので止めたことがある。つまりこれは……。


「食べてみろ……ということか?」

カブト虫の幼虫と違って、この見た目なら食べられそうな……気がする。良く見ると美味しく見えてきたかも……知れない。


「となるとこれは?」

石のような塊を持ち上げる。実に固い。


「確か遥か東の地に携帯食として硬いなんだかを食べると聞いた気が……あるような、ない様な……」


いや違うな、確か……。


「そういえば、わざと腐らせて固めた料理が東方にあると言ってたな!スープにつけて柔らかくするとか……」


石?をスープにつけたら、じんわりと染み込んで、柔らかくなっている気がする。


「あ……やはりそうか。たまに冒険するから困る……」


食の加護をもつ精霊と契約したシェフを招き入れると大変だ。しかし仕方のないことだ。

私はカブリと石のような何かに噛み付いた。

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