第10話 トイレでの戦い
「う゛……お腹が痛い……」
ギュルギュルと激しい音を立てるお腹を押さえる。またトイレに行かなければ、もう我慢の限界だ。
いったいなぜこんな風になったのか。
昼食が珍しく粗末な見た目だったのは覚えてる。味も酷かった。今日は料理長が休みだったかと思いながら食べた位に不味かった。
そもそも仕事に夢中だったから料理が運ばれて来たのも気が付かなかった。書類にサインをして軽く伸びをしたら、部屋のテーブルに置かれた食事に気がついたほどだ。仕事に夢中で空返事するのはいつものことだ。だから気にせず食べた。結果これだ。本気でつらい。
苦しいトイレでの戦いが終わり、部屋に戻ると執事のジュードと目があった。いつの間に部屋に来たんだろう。気が付かなかった。
「ケネス様……お顔が真っ青ですよ?なにかありましたか?」
「いや……なんでもない」
こほんと咳をひとつ漏らして、部屋にあるソファへと座る。
言えない、昼食を食べたらお腹を壊したなんて……誰かの責任になることだ。最悪、料理長の責任になる。それは困る、料理長は食の加護の精霊と契約しているレアな人材だ。彼の料理が食べられなくなるのは本気で嫌だ!
「だったら良いのですが……えっとコーデリア様ですが、早速動きがありました」
「もう男を漁ったのか?早すぎないか⁉︎いや……さすがと言うべきか」
「漁る……というか初めは世間話をしているようでしたが、最後の方は瞳がキラキラと輝いていました。確かにあれは恋する瞳……私の勘は外れていたようです」
「まぁ、噂通りと言うべきか……それで?誰だ?」
「庭師のケリーです」
「ケリーか!確かにかわいい顔をしているからな。ケリーはどうだ?やる気があるのか?」
「聞きましたが、あんな美しい人の相手は無理だそうです。胡蝶蘭を手折ると美しく咲かないだなんだ言ってました」
「くっ!やはり平民には荷が重いか!」
「そんな感じじゃない気がしますが……まぁ、ケリーは諦めてください」
「やはりここはお前が行くべきだろ!行け!」
「謹んで辞退させて頂きます。ああ、そう言えば神殿から神託が下ったとの知らせがありました」
「……神託?」
神託は夫婦神や高位精霊からもたらされるものだ。我が国も他国でも最も大事にされる言葉。王の言葉より重いそれは、何よりも重要視される。我が領内にある神殿へ神託がもたらされたのは何十年振りだろうか。
「神託内容は?」
「精霊の加護を失った碌でなしな家族を国外追放しろ、と言うことでした」
「随分と具体的だな。まぁ精霊の加護を失うなど滅多にあることではない。すぐに見つかるだろう」
「早速、捜索隊を編成します」
ぺこりとお辞儀をしてジュードが部屋を出るのを、なるたけ平静な顔で見送る。早く出て行ってくれ。また、トイレに行かなかればならない。
結局私は夜になってもトイレとの格闘が終わらず、夕飯を食べることができなかった。コーデリアと食事をせずにすんだのは、とても良かったが、食べられなかったのは残念だ。
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