第9話 素晴らしい昼食に感動しました。
ケネス様の彼氏候補を見つけ、ルンルン気分で帰ってきた私は、侍女が持って来た昼食に目を瞬くことになった。
なぜなら、昼食は泥水に浸けたパンと、道に生えている草のサラダ、カビを生やした肉を焼いたステーキ(?)だったからだ。
侍女がニヤニヤしながら部屋を出て行った後に、またもや怒り顔になったパティが、全身から闘気をたぎらせている。これはさすがに怖いかな?見た目はかわいいけど。
《やっぱり滅ぼしても良い?》
「ダメよ。逆にこの次は何が出るか気になってきたわ」
むしろ良く用意した。泥水パンと草サラダは簡単に用意できるけど、カビた肉……これは事前に用意しないと難しいだろうに。
ちなみに見た目では分からない。だけど侍女の精霊が情報をくれた。そのまま食べたら流石にお腹を壊すかも知れないから辞めた方が良いと。
《食べることができるようにするね》
パティに任せれば、泥水は浄化されるし、お肉は食べても大丈夫な状態になるだろう……だけど知っていると食べたくないかな?
私が拒絶の意を表すと、パティはやめてくれた。
「夕飯はケネス様と一緒って言っていたから、それまで我慢するわ」
《果物でも用意する?》
「そうね……」
朝食はパン一個と具のないスープ。さすがにお腹が空いている。
「厨房から何か持って来ることできる?」
《うーん、ちょっと考えさせて?》
パティが宙に浮きながらくるくる回り始めた。きっと魔法でこの館の現状を把握しているのだろう。
パティに任せれば簡単だから、次からはこの手で行こう。
それにしてもここの侍女たちは馬鹿なのかしら?こんなあからさまな証拠を残すなんて。
とは言えど、言いつける気はない。そもそも人の話しを聞く耳をもたない人間に期待はしない。今の状況を楽しんで、そしたらこの国を出て行こう!
「ケネス様とテリー、良いわね」
ふふふっと笑っていると、パティが目の前に降りてきた。
《ねぇ、気持ち悪いんだけど?》
「あ!ごめ〜ん。妄想していた」
《また?好きだよね、妄想。それよりこの手でどう?》
パティが手をかざすとテーブルを淡い光が包む。そしてその光が消えたとき、泥水パンと草サラダ、カビお肉が消えて、お皿はそのままで見た目の美しい食事に変わっていた。
「美味しそうな食事……魚のムニエルと、タコのカルパッチョ、更にこれは麦芽のパンね」
《ケネス様の部屋にあった食事だよ。入れ替えた!》
「え?」
《食の加護の精霊と契約した料理人が作ったものだよ。きっと美味しいよ》
おお、さすがバルフォア侯爵家!食べ物系で最高の加護じゃないか!これは期待が持てる!
パクッと一口食べれば広がる海の世界。
「美味しい〜」
《私にもちょうーだいよ》
「良いわよ!一緒に食べよう!」
《うわ……美味しい〜、最高》
「ケネス様の食事最高!これはケネス様の食事だから美味しいのかしら?」
《コーデリアにも同じものが用意されたらしいよ。でも侍女長が食べちゃったみたい》
「あー、この味だったら気持ちは分かる!」
この言語力を奪うような味!本当に美味しいものを食べると、人は美味しいとしか言えなくなるのね!確かにこれは誘惑のるつぼ!侍女長じゃなくても、盗んで食べたくなるだろう。まぁ、犯罪だけどね!
「ケネス様のところには、あの食事が行ったわけかぁ」
《食べていたらやばいわね》
そう言って笑うパティの顔は嬉しそうだ。
まぁ、大丈夫でしょ。あんな粗末な見た目のご飯を、仮にもバルフォア侯爵様とあろうお方が、食べるわけないものね!
しかし、私の楽観的な予想とは裏腹に夕飯時にケネス様は来ず、私は食の加護もち精霊の料理人のご飯を一人で満喫することになった。
ご愁傷様です。ケネス様!
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