第7話 あんな女は信じない

「ケネス様……もう少しコーデリア様のお話を聞いた方がよろしいのでは?私には嘘を言っているように見えませんでしたが」


執事のイーサンの言葉に、執務机に座る私は手を振ることで拒否をする。

あんな女の言葉を信じるつもりはない。そもそもコーデリア・オルコットは淫乱女で有名なのだから。


コーデリア・オルコットが、齢12で使用人と通じ、田舎に住む祖父母に預けられたことは有名だ。田舎に行っても反省なく男を虜にし、取っ替え引っ替えしていることも。


そんな彼女が15歳の時、精霊を授かる契約の儀を行うためバルフォア領の直轄地へ現れた際には騒ぎになった。我が伯爵家に連なる貴族はおろか、裕福な商人も噂の美女を一目見ようと神殿へと足を運んだ。


そして誰もがその美貌に夢中になった。あの美貌であれば男を虜にするのは仕方ない。できれば自分も相手になりたいという者までいる始末だ。


そしてそれを聞きつけた彼女の父は娘を売り込み出した。

そもそもギャンブルばかりして、ろくに仕事もしていない彼女の父に収入はなかった。だからだろう。18才になったら娘を嫁がせると口約束し、あちらこちらの家に借金をし、収集がつかなくなったところで、私のところに訴状が押し寄せることになった。


調べたところ、なんと10軒以上の貴族や豪商に娘を担保にして、金を借りていた。

それら全ての借金を肩代わりし、どの家とも憂いがないように私がコーデリアを娶ることにした。そうすれば争うこともない。逆にそうしなければ、殺傷沙汰になりそうなほど、事態は緊迫してたのだから。


それに私にとってもコーデリアは都合が良かった。

私は結婚したくなかった。女性を愛する気もなければ、子供をつくる悍ましい行為など考えたくもなかった。幸いなことにコーデリアは遠く我が伯爵家の血を引くもの。さらに男好き。だったら適当な男と子供を作ってくれるだろうと思ったのだ。適当な男……つまり私が用意する男だ。


「どうだ?何人いた?」


「そうですね……候補としては家人2名、親戚筋で2名ほど……。しかし本気ですか?」


「当たり前だ。男であれば誰でも良いような女なんだからどれでも良いだろう?」


「はぁ、本気で実行されるのですね?」


「私に二言はない!」


納得できないのだろう。イーサンはあからさまにため息をつく。それを見ないように、私は執務机にある山となった一番上の書類をとり上げる。彼女のドレスとアクセサリーの請求書。これだけの金をかけているんだ。文句は言わせない。


「あんな安物のドレスなど、贈ったドレスの十分の一にも満たない額だろう」


「コーデリア様のお祖母様のドレスだとすれば、それは金額とは関係ないのでは?」


確かにドレスを抱く姿は、大事な宝物を壊されたようではあった。だが相手は悪女だ。男を騙す事は息を吸うように自然にできるのだろう。


「あんな古臭いデザインのドレスが宝物なわけがないだろう。全て芝居だ!」


コーデリアの父も言ってた。娘は嘘ばかりつくと。いつも自分を被害者ぶって、有る事無い事を言ってくると。あの小芝居もそれだろう。我が家の優秀な侍女があんな古臭いドレスを破くわけがない。さらにカビぱんなどあり得ない!


「あくまで侍女達を信じるわけですね。ではどうしますか?今のまま、あの者達にコーデリア様を任せますか?」


「仮にも侯爵夫人だ。つけないわけにはいくまい。そのままにしておけ!」


またも、ため息で応える執事から視線を逸らす。すると契約精霊の声が聞こえた気がした。

《ダメダヨ……》そう、言われた気がした。

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