第6話 罪には罰が必要です!

この世界で召使を呼びつけるには、現世でいうインターホンのようなものに魔力を通すだけで良い。


だから壁にあるインターホンもどきに、怒りとともに魔力を通す。すると少しどころか大分経って、侍女長が侍女達を引き連れてやってきた。


「なんのご用でしょうか……オクサマ」

侍女長は太々しい態度だ。その肩にのる精霊は、土下座している。つまりこいつが私のドレスを切り裂いた主犯格だ。


私はスーツケースを彼女達の前に置き、そしてその中にあるお祖母様の形見のドレスを持ち上げる。


「わたくしのドレスが切り裂かれているのだけど?」

「まぁ、それは大変ですわね。誰の仕業かしら?」

クスクスと笑いながら侍女長並びに、侍女達は顔を見合わせる。


彼女達の態度を許そうと……初めは思っていた。彼女達からすれば、自分が仕える主人に評判の悪い女が嫁にきたのだ。虐めのひとつもしたいだろうと思っていた。そもそも私にはパティがいる。彼女達が何をしようと私には何のダメージもない。さらに私に平謝りする精霊達もかわいそうだと思ったからだ。だけど、人の持ち物を傷つける輩を許す気はない!私はそこまで寛大じゃない!


「あくまでしらをきるのね?」

「何のことだか分かりませんわ」

「わたくしは侯爵婦人よ。分かっていてやっているのね?」

「まぁ、まるで私たちが犯人のような言い草。さすが華々しい経歴をお持ちの方は、違いますわ」


カッちーん!カチンときたわ!謝ればまだ許してやろうと思ったのに!


《取り敢えず、息の根を止めて良い?》

パティまで物騒なことを言い出した。パティの言葉を聞いた精霊達が口々に謝る。号泣してる精霊もいる。かわいそうだけど、それは心がズキンとくるけど、ここはひとつ雷を落とさないと!


「何をしている!」

一言言ってやろうとした瞬間、中扉を通ってケネス様が現れた。


どうやら騒ぎを聞きつけてやってきたようだ。それとも後ろに控えている執事が告げ口のだろうか。


若い執事ね。しかも綺麗な顔をしている。切れ長な目をしたナイフのようなケネス様とは正反対な、柔らかい物腰のいかにもメス顔の男性執事。


『ご馳走さ……』じゃないわね!怒らなきゃ!


「わたくしのドレスが引き裂かれていたのです!」


ケネスさまがズタズタに裂かれた私のドレスを見てため息をつく。

分かってくださるのかしら?


「……自作自演か?」

「………………は?」


「察しが悪いな。同情を引くためにわざとやったのかと、言っているんだ。我が家の侍女は優秀だ。このような稚拙な行いをするわけがないだろう」


なんだそれ?そんなことをするわけがない!


「これは――お祖母様の形見です!わたくしが切り裂くなどあり得ません!」


「そう言う筋書きまで作っているのか……まったく呆れたな。悪知恵ばかり働くと聞いていたが、ここまでとは……」


カッチーン、さらにさらにカッチーンってきたわよ!


《滅ぼす?》

パティの顔が魔王みたくなってる。その言葉と表情を見た精霊たちが悲鳴をあげている。ああ、あの精霊は気絶して下まった。


どうしよう!怒りのまま滅ぼしちゃうのは簡単だけど!


……この国にはいろんな人がいる。一部の人を見て滅ぼしちゃうのは違う。

少なくとも、私が育った田舎の人たちは、私の冤罪を信じてくれるでしょう。


私は深呼吸をする。


「……色眼鏡でしか人を見れない人に話す言葉はありません。今後私に侍女はつけないでください。食事も結構です。悪意のある人間と付き合いたくありませんから」


「――っ!意地を張るのは大概にしろ!食べなくては死ぬだろう!」


「今朝の朝食はカビぱんと、灰汁だらけのスープでした。カビぱんだって食せば下手をすれば死にます」


「そんな物を我が家の侍女が出すわけがないだろう!そもそもちゃんとした朝食を用意するように料理長に申しつけている!あなたは我が伯爵家の世継ぎを産む大事な体だからな!」


侍女たちがニヤニヤしている。

そうか、侍女達はケネス様が同性愛者なことは知らないけど、この結婚が世継ぎを産むための女を金で買った、愛のない結婚であることは知っているんだ。だから虐めても平気な顔をしているのね。


ここで同性愛者であることを言っても信じてもらえないだろう。そして私の真実の言葉も届かない。

孤立無援……ではない。なぜなら私にはパティがいる。


《出ていって!》


パティが叫ぶと精霊達が震え上がる。精霊達は仕切りに主人に声をかけるが、残念ながら多くの精霊の言葉は主人には届かない。だが、ケネス様は第三位の精霊と契約している。さすがにその声は届いたようだ。


「私の精霊がこの部屋にいるなと言っている。確かにそうだな!無駄な時間だ。皆、下がれ!」


ケネス様と契約精霊は、残念なことに私とパティのように会話が成り立っていないようだ。ケネス様の精霊は必死に私に冤罪を着せるな、謝れと言っているのに。


ずらずらと出ていく侍女達は侮蔑の表情を浮かべている。その肩に乗る精霊は正反対に謝っている。


《もうこの国を滅ぼそうよ!》


扉が閉まり、気配が遠かったのが分かったの私はため息をつく。


「皆が悪人じゃないわ。それに、国民の多くは精霊の姿が見えないのだもの、仕方ないわ。だけど頭に来ることは確かよね?」


《じゃあ、この館にいる全員の精霊の契約を解除する?》


「それは……ちょっとやり過ぎじゃない?」

両親に与えた罰と一緒。でも殺されかけたわけじゃないし、電気ガス水道が使えない生活は気の毒だよね?


「そう……ね、じゃあ、小指の爪が3倍早く伸びるってどう?」


《え……それに何の意味があるの?》

パティの呆れた顔が目に入った。


「え?だって、ほら、小指の爪だけ伸びるって不気味じゃない?それに歩くのにバランスが取り難くなるでしょう?」


《私は人間じゃないから……分からないけど、それが罰になるとは思えないけど?》


「パティたち精霊はいつも飛んでるから分からないと思うけど、小指の爪だけが長いって、とてつもなく不便よ!いい気味だわ!」


《分かった……じゃあ、侍女達とケネスだけの小指の爪を伸ばすね》


「利き足だけね!これ絶対」


パティはため息をついて、魔法を使う。


ざまぁみろ、私の悔しい気持ちを受け取るが良い!

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