第5話 さすがに怒るわよ!

食事を下げに来たメイド達は空になっていた食器を見て、驚きの表情で私を見た。

良くあれを食べたわね。意地汚いわ……と言われたが、そこに反省の色は見えなかった。


こちらから言わせて貰えば、良くアレを用意したわね!食べ物を粗末にするな!だけどね。


その後は放置され、私は何もすることがないので、与えられた妻の部屋でぼーっとテラスから外を見ている。


《コーデリアの両親と兄が、精霊の加護を失ったって言って家で嘆いてるよ》


「あら、そうなの。それはそれはかわいそうに……」


精霊の加護を失ったと知られたら、神殿の異端審問にかけられ国外追放だ。さっさと追放されれば良い。祖父母を亡くした今、家族に未練は一切ない!


《コーデリアの元に助命に行くって言っているよ》


「……それは嫌よ、会いたくないわ」


《じゃあ、神殿に神託を下ろしておくね。国外追放するように》


「よろしくね」


父はギャンブル狂い、母は浪費家、家計は傾くばかり。幼い頃にそれを咎めたら手痛い暴力を受けた。更に食事も与えられなかった。あの時はまだパティと契約をしていなかったから、死にそうになった。


助けてくれたのは館で働いていた執事見習いだった。祖父母と共に田舎に行った執事の息子。彼と共に祖父母の元へと行った。行かなければ死んでいただろう。


私達が育て方を間違えていたと、最後まで泣いていた祖父母には申し訳ないけど、私は両親を許す気はない。ましてや、今の私の現状は両親のせいだからだ!


「……暇ね」


《庭でも見に行く?ここの庭園は立派だよ。庭師が良い腕をしているよ》


「良いわね!」


立ち上がって気がつく。まだ寝巻きだ。メイド達から「男を誘うしか脳がないのだから、それで十分でしょう」と言われ、着替えさせてもらえなかった。


クローゼットを開けると……

「うわぁ……最低……」


趣味じゃないドレスが山のようにある。どれも胸を強調する娼婦のようなドレスばかり。色も酷い。真紫、真赤、これは真っ黒、うわ!これは金色?原色ばかりの派手派手しいドレスに辟易する。

祖父母と暮らしていた時は、私はコルセットのない町娘のようなシンプルな装いだった。それこそが私の好みなのに。


「こんなの着れないわ。確か家を出る時に……スーツケースに自分の服をいれたはず」


私のスーツケースはクローゼットの奥に投げ捨てられるように置かれていた。開けると中にあるお気に入りのドレスが切り裂かれている。祖父母が買ってくれたドレス。更にこれは……。


「お祖母様の形見のドレス……」


淡い黄色のドレスは祖母が祖父から贈られたもの。ふたりの愛の証。祖母が生涯を通して2回しか袖を通さなかったもの……。


「パティ……」


《やっちゃう?》


怒りでパティの姿が見えなくなる。きっとパティも怒りの表情をしているだろう。パティも祖父母のことが大好きだったから。


私は頷く。ひとにはやって良いことと悪い事がある!それを知らしめなければ!

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