第4話 私の相棒はすごい子なの。

洗面器の虐めの後に待っていたのは、カビた硬いパンと、灰汁のスープの朝食だった。


むしろ良くこれを用意したと感心する私を置いて、彼女達は出て行った。舌打ちの輪唱が素晴らしく美しかった。


《すごい虐めだね?この領地の実りを止めちゃう?》

かわいらしい顔をしたパティが、怖いことを言う。


15歳で契約をする精霊は、全てこの国の神、アベーレ、アデーレの子供だ。だがそこには明確な序列があり、序列に応じた強さがある。


序列は一位から、二十位まであり、多いのは序列二十位の精霊。平民達の多くが二十位の精霊と契約を結ぶ。

二十位の精霊と契約を結べば、一般的な生活は保障される。つまり電気、ガス、水道は確保できる。あとは序列が上がるにつれ、様々な属性の魔法が使えるようになる。便利な生活が送れるだけではなく、給料の良い特殊な職業につけるようになる。


更に序列の高い精霊は加護を持ち、人はその恩恵に受けることができる。

加護は言葉が曖昧になればなるほど、強くなる。

例えば、焚き火の加護を持つ精霊と契約できれば、人よりも長い時間、火を起こせるので就職が少し有利になる。


炉の加護を持つ精霊と契約できれば、焚き火より強い火を長時間起こせるので、もっと良い職につける。


火の加護を持つ精霊と契約できれば、火に関する全てのことができるようになるので、かなり良い職につける。


更に赤の加護などと言った曖昧な言葉になればなるほど、応用力が抜群なので、職業選択の範囲は増える。


実は私の相棒、パティは序列第一位!現在のところ、この国で一番偉い精霊だ。

だから何でもできると言っても過言ではない。


「うーん、彼女達一部を見てそうするのはちょっとどうかと思うな。まずは様子見で行きたいんだけど」


《コーデリアは優しいね》


パティはヒュンと飛んで、私に出された食事に手を当てる。するとカビぱんはホカホカの出来立てパンに、灰汁だらけのスープは澄んだ透明なスープに変わった。


《さすがに具は作れないなぁ》


スープを覗き込むパティは、その姿を映す。

パティは太陽のような黄金色の髪、同じ色の瞳。さらに天使の羽を左右3枚ずつ持っている。この羽根の形と数の多さで序列が分かる。


「ケネス様の精霊は天使の羽根が一対だったわね」

《うん、序列第三位!かなり高位だよね。私には負けるけど!》


鼻息あらく威張っているパティは可愛い。パティは女の子の精霊だ。ケネス様の精霊は男の子だった。昨夜はごめんなさいと言いながら、私にぺこぺこと頭を下げていた。


普通の人間は他人の精霊を見ることはできない。意思の疎通すらも難しいらしい。


だけど私は他の人の精霊を見ることができる。これはパティと契約したからではなく、元から魔力が高いからだ。これはバルフォア侯爵家の落とし胤であった曽祖母の血を引くおかげだろう。もしくは転生者チートか……それは分からない。


パティが変えてくれたホカホカパンに手を伸ばす。


《こんな稚拙な虐めをして何が楽しいのかしら?》


「うーん、私には分からないけど、まぁ良いわよ。パティのお陰で問題なく食べれるもの。いつもありがとう、パティ」


《コーデリアの役に立てることが、私の幸せだから!》


パティが肩にふわっと乗る。大好きなパティの温もりが肩に伝手ってくる。


さて、これから何をしようか……私は心の中でつぶやいた。

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