第2話 親父をぶっ殺すって思いました。

さて、異性界転生というからには、この世界には日本と違う神がいて、お約束のように魔法もある。そうでなければ異世界転生ウェーイ!なんて言えないだろう。


この世界の神は、アベーレ、アデーレという夫婦神で(名前似すぎじゃね?)全ての人がこの夫婦神の信徒だ。というのもこの夫婦神から生まれた精霊達が人に寄り添うことによって、魔法が使えるようになるからだ。


国民は15歳になったら、神殿に行きアベーレ、アデーレに祈りをささげる。すると精霊が目の前に現れ、生涯をともにする良き友人であり、良き協力者になってくれる。魔力が強いほど力の強い精霊が現れる。もちろん、私にも友となる精霊がいるが、それは後でも良いだろう。


そんな精霊を産み出す、ありがたい夫婦神のモットーは『大地に広がり増やせ、大地を実らせ富めよ』だ。


一瞬、富国強兵かと思ったのは日本の歴史の授業のおかげだ。つまりいっぱい子供を産んで、いっぱい生産せよと言いたわけだ。この国の神は。


そんな宗教が根付いた国だから同性愛は許されない。特に貴族は強い力をもつ精霊と契約できる子供を産み出すことができるのだから、最低でもふたりは産むように義務付けられている。


なんて最低な世界だと思うのは、私が前世の記憶をもつ日本人だからだろう。


私が生きていた時代、日本はジェンダーレス社会を目指していた。同性愛への理解も深まっていたし、男性が女性の服を着ても、そこはその人の個性だと受け入れていた。もちろん頭の固い人だっていたが、なんと言っても私は生粋の腐女子。そこは断然受け入れ態勢!むしろウェルカムだ!


だから旦那様となったケネス様が同性愛者でも問題ない。でもこの国ではそうはいかない。


ケネス様が同性愛者なんて神殿にバレてしまったら、異端審問を受けて処刑されるのがオチだ。なのにケネス様は私に同性愛者だと打ち明けてくださった。これはどういうことなのだろうか?『ご馳走様です』なんて喜んでいる場合ではない。ちゃんと話を聞かないと……。


「ケネス様が同性愛者だということは分かりました。私を愛する気持ちがないことも……。ですが貴族は子供をふたり儲ける義務があります。それについてはどうお考えですか?」


ケネス様は自嘲気味にふっと笑う。うーん、やっぱり男前だわ。こんな笑い方もサマになるとは。

こんなケネス様の恋人は、可愛い系かしら?それとも、同じイケメン系?いや、ここはマッチョ系から襲われるもアリよね?待て待て、意外に襲う系?どれもアリだわ。やっぱりご馳走様です!


「理解を示すとは……父親が言っていた通りだな」


うーん、なんか分からないけど蔑まれちゃってるな。あのクソバカギャンブル親父は私のことをなんて言ったのかしら?気になるわー。


「あなたの曽祖母が我が侯爵家の血筋であった事くらいは知っているな?」


「ええ、確か、ケネス様の3代前の侯爵様の腹違いの妹様と伺っております」


そうなんだよね。うちの父親はろくでなしのアホ親父だけど、祖父や曽祖父は違った。特に曽祖父は、ケネス様の曽祖父、当時の侯爵が襲われた時に身を挺して守ったということで、腹違いの妹を下賜されたのよね。


女をなんだと思ってるんだ!と言いたいところだけど、お祖父様のお話だと仲の良い夫婦だったらしいから、結果良かったんだろう。おかげで私も普通の貴族より恩恵を得ているわけだしね。


「そう言う意味ではあなたの子供は、我がバルフォア家の血を引いていると言っても良いだろう」


「えっと、意味が分からないのですが……」


んんん?この人何言ってんの?曽祖母っておばあちゃんの、お母さんだよ?しかも確か、その人って3代前の侯爵がメイドに手を出して産ませた子供だよね?遠いにも程がないか?


「察しが悪いな。だから適当な男を相手に子供を作っても許すと言っているんだ!」


「……………………え?」

察しが悪いとかそういう問題ではないだろう。私をなんだと思っているんだ!


「あなたの父親から、あなたは誰とでも関係をもつ、ふしだらな娘だと聞いている。私は女性と関係を持つ気はない!だからあなたが適当な男と関係を持って子供を何人でも産めば良い。どのような男と関係を持っても認知しよう。贅沢もさせてやろう。代わりに私のことは秘密にしろ!良いな!」


えーーーーーー、なんだそれ、と思っている間に、ケネス様は軽蔑の視線を逸らし、舌打ちし、更に怒り肩で部屋を出て行ってしまった。


「…………くそオヤジめ」

怒りのあまり枕に拳を沈めた私は、きっと悪くないだろう。

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