第39話 正義

私はあれから戦いを続けている。

戦っているというよりはお兄様の時と同じで

一方的な暴力にあっている。


「君もしつこいな。

 降伏すれば僕が幸せにしてあげるのに」

「私を幸せにできるのはお兄様です!!」

私は両手から炎を出して攻撃しようとする。


せめて、少しでもこいつを…


「無駄だよ」バキ

「ぐっ…」

顔面を殴られたことにより魔法を中断する。

力で勝てない私は近接戦ではどうしようもない


「これ以上、抵抗するなら殺すしかないか」

「やれるなら早くやって!

 私はこの世に未練なんてない。」

私は脅しなどには屈しはしない。


「いいなぁその目…

 やっぱり、僕のところに来なよ。」

「いや…」

やつは気持ち悪い目で私を見てくる。


怖い…

そんな目で近寄らないで…


「なに、すぐに僕しか見れなくなるさ」サッ

「や、やめて…」


やつは私の方に手を伸ばしてくる。


やだ…

誰か…たすけて



「おにいさま…たすけて」

  


私はもうここにはいない人を呼んだ。



「無駄だよ。あいつは死んだ…ぎゃあ!!」


その瞬間、男の腕が吹き飛んだ。

何が起きたのかは分からない。

 

だって、私の視界に男はいないから


男から私を庇う

あの人の後ろ姿しか見えていないから



「よく頑張ったなカレン。」

あの人は

いつものように優しい声をかけてくれる。

この声が私は好きだ。


ギュ


そのまま、振り向いて抱き締めてくれる。

ああ…この感覚、本物だ。


お兄様が来てくれた…


「お兄…様」

「後は俺に任せておけ」

お兄様を呼んだ私は

そのままお兄様の胸の中で…




ーーーーーーーーーーーーーーーーー


「フレイさん…」


フレイさんがお兄さんの中に消えていってから

少しの時間が過ぎた。

なにもできない私はただやられていく

カレンちゃんを見ていることしかできない。


『レジストくんをよろしくね』


彼女が何をしたかは私には分からない。

あの顔は覚悟を決めた表情だった。


多分、もうフレイさんには…


ツー


お兄さんの目から一筋の涙が流れた。

それと同時にお兄さんの目が開く。


「お兄さん!」

「ばに…ら?大丈夫だったか?」

お兄さんは起きると同時に私の心配をする。


さっきまで自分が危険な状態だったのに…

こういうところがお兄さんらしい。


「私は大丈夫です!

 それよりも

 フレイさんが…カレンちゃんが!」

私は支離滅裂になりながらも

お兄さんに二人のことを伝える。


「フレイは…

 それよりも今はカレンを助ける。

 バニラ、ちょっと行ってくるな」ポン

お兄さんは一瞬、悲しそうな顔をしたが

すぐに顔を引き締めて私の頭に手を置く。


「お兄さん…でもアドルフお兄様には…」

「大丈夫だ。もう俺は負けない。」

お兄さんはそう言って私に笑いかける。

その表情に迷いはないようだ。

本当にあのアドルフお兄様に勝つつもりだ。


「バニラはそこで見ててくれ」スッ

「あ」

お兄さんの温もりが一瞬で消えてしまった、

カレンさんのところに行ったのだろう。


「お兄さん…信じています。」


お兄さんの後ろ姿を見ながら…


私は静かに呟くのだった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「レジスト!!よくも、僕の腕を!!

 それにお前は死んだはずだ!!」

「お前に会いに戻ってきた。」

俺はカレンを離れたところで寝かせてから

アドルフと相対する。


キラキラ

アドルフも腕の治療が終わったようだ。


「また、僕に殺されに戻ってくるとは

 君は本当に愚かな人間だな。」

「悪いな…俺は元々悪役なんだ。

 主人公に何度も挑むのはお決まりだろ?」

「何を言ってる?」

俺はあくまで淡々と返答をする。

荒れ狂う激情を隠しながら…


「また殺してあげるよ。」キュイン

「なぁ…怒りって

 限界を迎えるとどうなるか知ってるか?」

「うるさい、死ね!」

罵倒と共に魔法を放ってくる。

先ほどまでだったら止められなかっただろう。


「正解は冷静な殺意に変わるんだ」ボウ

アドルフの魔法に俺の魔法をぶつける。

先ほどと違い、

俺の魔法がアドルフの魔法を飲み込んでいく。


「ば…ばかな…おおおおおお」

そのまま、アドルフに直撃した。


今の俺は感情によって魔力が変化している。

がくれた力のおかげだ。


「お前だけは俺の私怨で殺させてもらう。

 死んだら、俺を恨んでくれ。」

「レジスト!きさまぁ!!!」

即座に回復したアドルフは俺に向かってくる。

近接戦闘で俺に挑む気なのだろう。


「お前さえいなければ!!

 世界を統一して平和にできるんだ!!」キン

「知るかよ…」


ダン

「うわぁ!!」

足払いをして転ばせる。

力が並んだ今、俺より技量のないこいつには

技が通用するようになった。


ドン

「ぐぇ!」

俺が胸をおもいっきり踏みつけると

アドルフはカエルのような声を出す。


「ぎ…ぎざまぁ!!」

潰れた声と共にこちらに殺意を向けてくる。

タフなやつだ…


「…」ボウ

無言で俺はアドルフの頭を魔法で消し飛ばす。


キラキラ

すぐにやつの頭は再生する。

蘇生魔法だ。


「何度やっても無駄だ!!

 僕は無敵ーーーーー」ボウ

やつが何かを言い終わる前に

再度、頭を消し飛ばす。


キラキラ

「な、なにをーー」ボウ


何度も


キラキラ

「おい、はなしをーー」ボウ


何度も


キラキラ

「レジストーー」ボウ


何度も頭が再生する度に頭を消し飛ばす。

ゴミを処理するように…


キラキラ

また再生が始まるようだ。


早く消し飛ばさないとな…



「や、やめてくれ…たすけてくれ」ガタガタ

「なぁ…

 お前はバニラと自分のどっちが大事だ?」

アドルフは震えるながら命乞いをする。

俺はそんなやつを哀れみながら質問をする。


「ぼ、僕だ…」


「バニラは命を賭けてお前を守ったぞ」

アドルフは自分の方が大事だと言う。



バニラは怯えながらも俺の前に立った。

震えていたって彼女の姿はとても立派だった。



「僕は世界の救世主なんだ当たり前だろ!」


それに比べてこいつは…



ボウ

手に火を纏わせる。

もう一度、こいつの頭を消し飛ばすためだ。


「や…やめろ!もうやめてくれ!!」

「ここでやめるのが優しいんだろうな」

そう言って俺は手から魔法を消す。



「た…たすかーーー」



ボウ

アドルフの頭が消し飛んだ



「わりぃ…

 俺は悪役だから優しくないんだわ」


俺は悪びれもなくに言った


アドルフの頭は再生しない。

精神が生き返るのを拒否したのだろう。




「終った…のか」




こうして、俺の宿命は

あっさりと終わりを迎えた。



「…」


あいつの存在を犠牲にして…

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