第38話 笑顔
「ん…どこだ?」
俺は気がつくと真っ白な空間に立っていた。
俺の周りには何もない。
「俺は確か…っ!?」
何があったのかを思い出した。
バニラを守ってアドルフの魔法が直撃して
俺はーーー
「俺、死んじまったのか…」
導き出した結論は俺が死亡したということだ。
妹を守って死ぬなんて俺らしいか。
そんなことを呑気に思っているとー
「君はまだ死んでないよ。レジきゅん」
聞き覚えのある声が聞こえた。
10年以上の付き合いだ。
聞き間違えるわけがない。
「フレイ…どうしてここに」
「やっほー。フレイお姉さんだよ。」
俺が振り向くと
案の定そこにはフレイがいた。
「レジきゅんはお姉さんに会えて興奮した?」
「しねぇよ」
普段と変わらないいつも通り態度だ。
その態度に俺は安心感を覚えた。
「フレイ、ここはどこだか分かるのか?」
「寝ているレジきゅんの心の中だよ。」
俺は気絶していたのか…
それに俺の心の中だと…
こいつは人の心の中にも入れるのか…
本当になんでもありだな。
「それよりも…
フレイ!他の二人はどうした!!」
「バニラちゃんは君のことを治療していて、
あの子は今も王子と戦ってるよ。」
「カレンが…!?」
俺が寝ている間にもカレンは戦っていたのか。
兄として不甲斐ない。
「まあ、もう限界そうけどね。」
「行かないと…」
俺はカレンのところに行こうと起きようとする
どうすれば、起きれるか分からないが
カレンの危機に黙っていられない。
「レジきゅん、今のまま行っても勝てないよ」
「分かってる…
だけど、カレンが戦っているんだ。
ここで大人しくしていられるかよ!!」
善意で止めてくれているフレイに
俺はきつく当たってしまう。
フレイの言っていることは正論だ。
それでも俺はカレンを見捨てられない。
だって、俺はお兄ちゃんだから
「レジストくん。
私にあった時のこと覚えてる?」
「フレイ?今はふざけている場合じゃーー」
カレンが危ないというのにフレイは
意味の分からないことを聞いてくる。
注意して止めようとするがーー
「いいから答えて。レジストくん」
フレイの真剣な目がそうはさせてくれない。
「…っ。
無愛想で冷たいやつだと思った…
その後、襲われてすぐに認識を変えたけど」
俺は仕方なくフレイの質問に答える。
まだ5歳の俺を襲うなんて
今さらだけど、こいつやべえやつだな
「あのときは凄く緊張してたからね~」
「お前が緊張???
人見知りするようなやつじゃないだろ。」
緊張したと言うがこいつが人見知りをするような性格でないことは10年以上の付き合いでよく分かっている。
「君に会うんだもん。
そりゃあ、緊張だってするよ。」
「まあ、当時の俺はクソガキだったしな。」
あの頃が俺の一番の黒歴史だ。
今の俺も黒歴史?
そんなことはない。
俺は妹を大切にしているだけだ。
素人は黙ってな
「ふふ、そう言うことにしといてあげる。」
「なんだよそれ…
まあいい、急にどうしてこんな話を?」
意味ありげに笑うフレイに俺は
質問の意図を聞いてみる。
「なんとなくだよ。なんとなく」
そう繰り返して言う彼女は
とてもいい笑顔をしている。
それから、俺たちは思い出話に花を咲かせる。
修行中にセクハラしてきたこと
フレイが俺を監禁したこと
俺をメイドにして遊んでいたこと
変態二人で俺に夜這いしてきたこと
精神だけ妹になって遊んだこと
うん…ろくな思い出がないなぁ…
「…フレイ、思い出話はもういいだろ、
それじゃあ、そろそろ起きようぜ。」
冷静になった俺は起きることを提案する。
思い出話で頭を冷やすことはできた。
もしかすると、
フレイの意図はここにあったのかもしれないな
「レジストくんは
そうやってまた目を反らすんだね。」
「…っ」
そんなことを考えている俺のことを
フレイの言葉が突き刺す。
「…何を言っているんだ。フレイ?
そんなことよりも早くカレンを助けにーー」
フレイの俺の全てを見透かしたような目から
逃げるように俺は無理矢理話題を変えた。
「なんで私がここにいるのか
なんで私が思い出話をしたのか
レジスト君なら分かってるんでしょ?」
「…」
そう言いながら近づいてくるフレイ。
俺はなにも言えずに黙り込む。
「やめてくれ…フレイ」
俺は小さな声で言う。
なんとなく、フレイが何をしたいのか。
本当ははじめから気づいていた。
なぜ気づいたかって?
フレイのことなら分かるさ。
だって、何年一緒にいると思っているだ。
付き合いだけなら親と変わらないんだぞ…
「レジスト君、君に会えて幸せだったよ」キラキラ
笑顔の彼女から光が溢れていく。
その光が俺を包み込む。
力だ…
フレイの力が俺に流れ込んでくる。
「過去形なんかにするなよ…
これからも俺たちはずっと一緒なんだ!!」
「私は君に会えたこと自体が奇跡だったの…
だから、これ以上は望まないよ。」キラキラ
やめるように叫んだが
フレイの決心は揺らぐことはない。
フレイの体が消えていく。
すべての力を俺に託すつもりのようだ…
「やめてくれ…フレイ…。
そうだ!この力をフレイに返せばーー」
俺はフレイを生かすために力を返そうとした。
最悪、俺の命を賭けてでも彼女を守りたかった
しかし、それはできなかった…
「駄目ですよ。◯◯◯…」ギュー
フレイに抱き締められ耳元で囁かれた瞬間ーー
「お前…!?まさか…」
俺は全てを理解してしまったから…
「私にあなたを救わせてください。」
彼女は懇願するように俺に言ってくる。
彼女の思い
彼女の覚悟
彼女の正体
その全てが分かってしまった
今の俺ではもう彼女を止められない。
「俺は…お前のことも!!」
「あなたにはあの子がいるじゃないですか…
だから、何も気にしなくていいんですよ。
それでも、
あなたが私になにかをしたいのならーー」
「何でも聞いてやる…俺が叶えてやる!」ギュ
すでに半透明になってしまったフレイを
俺は泣きながら彼女を強く抱き締める。
「あの子を大切にしてください。」
「あの子を目一杯愛してあげてください。」
「二人ともずっと平和に生きてください。」
「それだけが私の願いです。」
そう言いながら彼女は俺に微笑んでくれる。
ほとんど体が消えているのにも関わらず…
「当たり前だ!俺はお兄ちゃんだからな!!
妹のためならなんだってするぞ!!」
俺は泣きながら笑顔を無理矢理作り、
消えゆく彼女に宣言する。
それがせめても手向けとなればいいと…
「あなたは本当に優しいですね…
ふふ、よかった。
最後にあなたに抱かれて消えるなんて…
もし、また生まれ変わるならーーー」キラキラ
彼女は笑顔でそう言い残して消えていった。
「ありがとう…」ツー
俺は彼女のいた場所に向かって静かに呟いた。
ーーーーーーーー
彼女の正体はご想像にお任せします。
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