第37話 憤怒

私のせいだ

私のせいでお兄さんがこんな目に…


「お兄さん!!」

私は急いでお兄さんのところに駆け寄る。


お兄さんが私のせいで魔法を直撃した。


「…」

お兄さんは何も言わない。

それどころか

うつ伏せに倒れたまま動かない。


もしかして―いや違うそんなはずない!

死という言葉が出る前に首を振り疑念を捨てる。


お兄さんは強い!

そう簡単に死ぬわけがない。


「はっ!

 女の子をかばって死んだのか

 随分かっこいい死に方だな。レジスト」

そんな私の心を嘲笑うかのように

お兄さんを馬鹿にし、

死んだというアドルフお兄様。


「アドルフお兄様!そんな言い方しなくても!」

私は兄さんを馬鹿にする口調が許せず、

アドルフお兄様に食って掛かる。


「ああ、お前もやらないとな」

そう言ってお兄様は光を集める。

今度こそ私を殺すつもりだ。


「レジストと同じところにーーぎゃあ!!」

私を殺そうとしていたお兄様が巨大な炎に包まれる。


この炎は…


「お前だけはコロス…

 絶対に私が殺してやる!!!!」

炎が放たれた方を見ると

そこには、

禍々しい魔力を放っているカレンちゃんの姿があった。


「か、カレンちゃん?」

「許さない…よくも、レジストお兄様を…」

いつものように兄に甘えるような姿からは想像できない

悪魔がとりついたような雰囲気だ。

私はその雰囲気に怯えてしまう。


「おもしろい!僕の国に欲しいよ。

 帝国なんて捨てて王国に来ないか」

「死ね!」ボウ

アドルフお兄様の誘いを断ったカレンちゃんは

手から先ほどよりも大きな炎を出す。


「すごい魔力だ」キュイン

そう言って、アドルフお兄様も魔法を放つ。


「やあああああああ!!!」

「はあああああああ!!!」

二つの魔法がぶつかる。

大きさは同じぐらいで一進一退の状況だ。


「きゃあ!」

あまりの魔力のぶつかり合いに

爆発が起こり、

カレンちゃんは吹き飛ばされる。


「まだだ…お前だけは私がコロス!」

「世界の救世主である僕には勝てないよ。」

カレンちゃんは

何がなんでもアドルフお兄様を倒すつもりだ。


私もやるべきことをやろう!!


そう思い、

私は二人が戦っている隙をついて

お兄さんの目の前まで来た。


「…っ」

怖い

もし、お兄さんが…

そう思いながら、お兄さんを仰向けにする。


「お兄さん、起きてください!」 

「…」

呼び掛けても返事がない。


ドクンドクン

私の心臓の鼓動が早くなる。


「失礼します。」ピト

そう言って、お兄様の胸に耳をあてる。


ドクン

小さいながらもお兄さんの鼓動が聞こえる。


「お兄さん!よかった…」

ひとまず、お兄さんが生きていることに喜ぶ。

しかし、今にも心臓は止まりそうだ。


絶対に死なせない!!


「神よ。私にこの力を

 与えてくれたこと今は感謝します。」キラキラ

そう言いながら、私は手に光を集める。

そして、お兄さんの治療を始めた。


私は初めて光魔法を使えてよかったと思った。



だって、大切な人を救えるから…



……


………


「しねぇぇえええ!!!」ボウ

私はやつの周りを炎で埋め尽くす。

普通の人間だとまず助からない。


「無駄だって言っているだろ。

 確かに君は強いが僕には勝てない。」キュイン

やつは軽々と炎を吹き飛ばす。


悔しい!お兄様の敵なのに殺せない!!


「なら!」ボ

私は細い一本の鞭のような炎を放つ。


「そんなもの簡単には消せるよ。」キュイーン

やつは魔法で炎消そうとしたが

その炎の動きは変則的でできないようだ。


お兄様直伝の魔法操作だ。

簡単に破られわけがない。

 

グサ


「ぐぁ…なんだこれは!?」

炎の貫通力は凄まじくやつの肩に穴をあける。


グサ

グサ

グサ


「お、おのれぇえぐぇええ!!」 

その調子で炎はやつの体に穴を空けまくる。


「そのまま死ね!!」

いける!これなら勝てる

私はその様子を見て勝利を確信した。


その瞬間


「調子にのるなぁぁあああ!!!!」

「!?」

やつが叫び出すといきなり体が光りだす。


「…っ。目が見えない!!」

その光を直接見てしまったため、

視界を奪われてしまう。


ドゴ

「がっ…」

慌てる私の腹に衝撃が走る。

無防備だったところでの攻撃だったので

私は思わず、その場に座り込む。


一体何が…


「少し優しくしてたら調子に乗るなんて、

 本当に帝国の人間はめんどくさいな。」

視界が戻り前を向くと目の前にやつがいた。

お腹の痛みもおそらくやつに蹴られたからだ。


「目潰しなんてせこい手も使うんですね。」

「帝国の人間に言われたくないな。」

私の軽口は適当な理論で流された。


世界の救世主とかいいつつ帝国を目の敵にする

どんだけ片寄った世界の人間なのだろうか


「来ないのか?ならこっちからいくぞ!」ブン

そう言って、彼は剣をふってくる。


ガキ

「重い…」ジリジリ

「なら、楽にしてあげるよ」ゲシ

「がはっ…」

彼の重い剣を受けとめるのに精一杯で

その隙を疲れてお腹を蹴られてしまう。


この距離はヤバい。

腕力の差で近距離では勝てないことがばれた。

このまま、近距離で戦われたら…





……



………


「お兄さん!起きてください!!

 カレンちゃんが…カレンちゃんが!!」

お兄さんを必死に起こそうと呼び掛ける。


治療が終わったのにも関わらず、

お兄さんは目覚めない。



「所詮は女だ。力では僕には勝てない」バキ

「きゃあ」


その間にアドルフお兄さんに

近接戦で押されていくカレンちゃん。


「起きて!お兄さん!!!」

しかし、お兄さんは反応しない。

それでも、私は叫び続ける。


お兄さんなら、この状況を何とかしてくれる。

私はそう信じているから!!


ザッ


「お兄さん!!……誰!?」


私の後ろから足音が聞こえた。


まさか、敵兵!

私は最悪の事態を想像した。



アドルフお兄様の他に敵がいたのかもしない。

怖い

私に戦う力はない。

普通の人間と大差がないほどしか



それでも…




お兄さんだけは…




「お、お兄さんには指一本触れさせ…!?」


意を決して私が振り向くとそこにはーーー





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