第36話 デジャヴ

「そんな…」

「お兄様…どうして」

妹たちは生き返ったアドルフを見て驚愕する。

それはそうだろう。

人が生き返るなんて魔法は聞いたことがない。


「アドルフ…お前は死んだはすだ。」

「残念だったな。

 僕が4年間入っていたところは

 力を手に入れるだけではなく、

 こういう魔法の使い方も教えてくれたのさ」


「…なるほどな」

アドルフが言ったことで俺は全てを理解した。

アドルフが使った救済処置はゲームが

苦手な人のために作られたものだ。

なら、蘇生の救済処置も用意してあるだろう。

やつはそれを使っている。


「やぁ!!」ブン

カレンが正気を取り戻し、

アドルフに切りかかる。


ガキン


「軽いな。」ブン

「きゃっ!!」

簡単に受けてとめられ、

そのまま腕力だけで吹き飛ばされてしまう。


「追加だ」キュイーン

「やめろ!!アドルフ」

アドルフはカレンに向かって魔法を放つ。

レーザーが一直線にカレンに迫る。


「させない!」

その魔法をフレイが

カレンに当たる寸前で魔法を使い受け止める。

流石、世界最高の魔法使いなだけはある。


「くっ…」

だが、フレイの魔法ですら受け止めきれない。

アドルフはそれほどまでに

桁違いの力を手にしたのだ。


「きゃあ!!!」ズドーン

二人の魔法が爆発して辺りが煙に包まれる。

その影響で二人の姿が見えなくなる。


「カレン!フレイ!」

辺りの煙が晴れると横たわる二人がいる。

どうやら、気絶しているようだ。


「安心しろ。殺さない程度にはしてやった。

 僕は女の子には優しいんでね。」

アドルフは適当なことを言う。

やつは間違いなくカレンを殺す気でいた。

フレイがいなかったら死んでいた。


「彼女は若いがなかなか筋がいい。

 我が軍に入れたいから生かすのは当然だ。」

「おまえ!!!」

アドルフの一言で子供の頃に見た

カレンのスチールを思い出す。

あの映像と同じことが起きようとしている。


「カレンはお前なんかに渡さない!!」

「ふふ、君の大切な人なのかい?

 それはいいね。僕のモノにしようかな」

アドルフは嬉しそうに笑い出す。


こいつ…歪んでやがる。

俺のすべて踏みにじりたいんだ。

カレンをめちゃくちゃに壊して自分のモノに…


あのスチールのような展開が起きたら、

俺は絶望して一生立ち直れないだろう。

やつはその絶望を俺に味合わせたいのだろう。



「お兄様…」

化け物をみるような目をして

震えながらアドルフを見るバニラ。


「バニラじゃないか。

 どうしてそちら側にいるんだ?」

「わ、わたしは」

「まあ、そんなことはどうでもいい。

 僕のところに戻ってきな。

 君がいれば軍をさらに強くできる。」

バニラに優しく自国に戻るよう諭す。


やってることは実の兄が

妹を敵国から救出しているようだ。

しかし、バニラは戻ったら…



「アドルフお兄様…

 私が戻ったら、お…レジスト様たちを

 見逃してもらえないでしょうか?」

バニラは震えながらアドルフに進言する。



「バニラ!駄目だ!!」

思わず大声を出してしまう。

 

「バニラ、何を言っている?

 こいつらは敵だぞ。」

「敵国の人であっても

 私はこの方々に大切に扱ってもらいました!

 だから、見逃して貰えませんか?」


あの時と逆だ。

前は俺からアドルフを守るために

バニラは自分を犠牲にした。

今回は俺を守るために

自分を犠牲にしようとしている。


「お願いします!アドルフお兄様」

「バニラ…」

頭を下げるバニラの名前を

アドルフは優しく呼ぶ。


「バニラの言いたいことは分かった。」

「分かってもらえましたか!お兄様」

バニラは理解して貰えたと思い、

喜びの声をあげる。





「君は洗脳されてしまったんだね?」




「え?」

バニラはアドルフの一言で固まってしまう。


「僕の妹を洗脳するなんて王国は最低だな。」

「違う!私は洗脳なんて…」

「僕の妹は国に尽くしている。

 そんなことを言うはずがない。

 洗脳じゃないと言うならお前は偽物か!!」

「そ、そんな」

実の兄に偽物と言われて

バニラはショックを受ける。


自分が生きているのはバニラのおかげの癖に


「貴様、バニラじゃないんだな。

 本物のバニラはどこに行った!!」

「私がバニラです。お兄様」

「うるさい!!偽物」

もう、バニラを偽物と完全に認識している。


「偽物のなんてこうしてやる」キュイーン

そう言ってバニラに向けて

魔法を放とうとするアドルフ。


「その子は本物のバニラだ。

 お前の妹なんだぞ!」

「うるさい!

妹だろうが帝国に逆らうやつはみんな敵だ!」

「きゃあ!助けて」

そう言ってアドルフから魔法が放たれる。

魔法の光がバニラを包もうとしている。


この時、俺には世界がゆっくりに感じた。


『おにぃたま』

小さい頃のカレンの姿が頭に浮かぶ。


小さい頃は俺の後をついてきて

今よりも素直な性格だったな。

今もだけど、天使のようでかわいかったなぁ。 

でも、なんでこんなときに


『お兄ちゃん』

次は小さい頃のアリアの姿だ。


昔は今より甘えん坊で頭や耳を

撫でてとせがんできたな。

今も昔も変わらない可愛い俺のー


ああ、そうか

これは走馬灯か…


俺の今までの人生で大切なものを思い出す。



「助けて、お兄さん!」

そして、

助けなきゃいけない存在が目の前にいる。


動け!俺の足!!


俺は止まった世界から動き出す。


間に合え!間に合ってくれ!!


ドン

俺はバニラを突き飛ばす。 


「おに…」

アドルフの魔法から抜け出せたようだ。



よかった…守れてよかった…



俺は笑顔で魔法に飲み込まれた。




ーーーーーーーーーーーーーー



私は目を覚ました。

どうやら、あの男の魔法で気絶していたらしい


「うるさい!

妹だろうが帝国に逆らうやつはみんな敵だ!」

怒鳴り声の方を見ると

バニラ王女があの男に魔法で狙われている。


「きゃぁ!!」

そのまま、男は魔法を放った。

終わったと思った。

もう彼女は助からないだろうと。


だが、


その瞬間、

私の大切な存在が彼女を突き飛ばした。


ドゴォォオオオオン!!


私の大切な存在は笑顔で魔法に飲み込まれた。



「あ…ああ」

私は体の震えが止まらない。

あの人なら、大丈夫。

あの人は誰よりも強いから。

そう思いながら必死に気を保つ。


煙が消えるとそこには




「お…お兄様。」



倒れているお兄様の姿があった。

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