第31話 戦線復帰
???
男が一人部屋の中央で座っている。
「はぁ…はぁ」
男の周りには
高密度の魔力が垂れ流されている。
その魔力は普通の人間が触れたら
頭がイカれてしまうほど濃い。
あと少し、あと少しだ。
あの赤い悪魔を倒せる
もう少しで世界を平和にできる
力を手に入れられる。
「力が溢れる。魔力が満ちてく…
待っていろ!赤い悪魔。
絶対にお前を倒して見せる!!」
男は暗い空間で叫ぶのであった。
ーーーーーーーーー
妹たちと泣く泣く別れ
俺はバニラと一緒に基地に戻ってきた。
「うう…カレン…アリア」
俺はシスターシックになっていた。
カレンたちに会いたい…
「よしよし。お兄さん
バニラがいますよ~」ナデナデ
「ば、バニラ~」ギュー
寂しさを埋めるようにバニラは
俺にくっついてくる。
俺もそれを受け入れる。
「ふふ、甘えるお兄さんもいいですね」ゾクゾク
何かバニラが不穏なことを
言っているが聞かなかったことにする。
「なぁ、バニラ。
真面目な話をしてもいいか?」
「なんですか?お兄さん。」
俺は一度バニラから距離を取り、
話をする体制になる。
「もし、お前の兄が
バニラを迎えに来たらどうする?」
「お兄様のことですか…」
「あぁ、そうだ。」
この三年間、
一度たりとも迎えにくることがなかった。
俺としては信じられない。
こんなにかわいい妹を
敵国に拐われたままにするなど。
本当にあいつとは合間見れない。
「…。
私はどうすればいいんですかね…」
「それはバニラ次第だ。
バニラが今すぐにでも帰りたいなら、
俺がなんとしてでも返す。」
彼女が本当の兄のとこに帰りたいというなら
俺は今からでも彼女を送り返す。
彼女が望むならそうしてあげたい。
この数年一緒にいて俺が出した結論だ。
「お兄さんは本当に変わらないですね。
私に裏切られるとは考えないんですか?」
「それはないな」
「なんで、そんなことが分かるんですか?
私は敵国の人間で王女ですよ。
裏切るかもしれないですよ。」
「だけど、俺の妹でもある。
バニラがそんなことするわけはない。
この数年でよく分かった。」
俺はなによりバニラを信じている。
「あなたを懐柔して
暗殺するための演技かもしれませんよ。
こんな風に…」スチャ
バニラはそう言って
俺の首元にナイフを突きつける。
彼女の表情はいつもと違う。
とても冷たい。
「そんな表情もできたんだな…
クールなバニラもかわいいよ。」
「ふざけないでください。
本気ですよ。私」
「ああ、もちろん構わない。
お前にだったら悔いはない。」
「お兄さん…」
バニラはバニラでずっと悩んでいたのだろう。
今の自分の立場に
帝国の人間でありながら、
王国でぬくぬくしている自分の立場を…
「それにバニラは俺を裏切らない。」
「…今の状況分かってますか?」
バニラは俺の首にナイフを当てる。
俺の首筋から血が流れる。
「ちゅぱ…お兄さんの血はおいしいですね。」
流れた血をキスのようになめとっていく。
「妹のために常に健康でありたいからな。」
「…レロレロ。
その妹に
殺されそうになる気持ちはどうですか?」
「もう少し甘えさせとくべきだったかな」
俺はバニラに対して強気な姿勢を崩さない。
「そんなんだから、騙されるんですよ。」
「かわいい妹の嘘だ。
許してやるのも兄の甲斐性だ。
それに騙してないからな。」
「根拠もないのにそんなこと言うんですか?」
「根拠ならあるさ。お前が言ったんだぞ。」
「私が?」
根拠はもちろんある。
「最初に会った日に言っただろ。
懐柔しようとするやつは
自分から懐柔するなんて言わないんだろ。」
「…」
そうだ。バニラが最初に言ったことだ。
「だから、こんな遊びはやめて。
いつもみたいに甘えてこい。」
「お兄さん!」ギュー
ナイフを放り出して俺に抱きついてくる。
「名演技だな。バニラ。
お兄ちゃんびっくりしたぞ。」ナデナデ
「えへへ」スリスリ
無邪気にバニラは笑っている。
先ほどとすごい温度差だ。
「私はお兄様が来ても離れたくないです。
だって、
お兄さんのことを知ってしまったから
愛されるということを知ったから
もう、あちらの国には戻りたくないです。
お兄さんと一緒に戦います。」
「バニラ」ナデナデ
「♪~」スーハー
バニラは戻りたくないのか…
俺は嬉しくなりバニラの頭を撫でる。
カレンが軍にくるまであと1年ちょっと、
そしたら、ゲームも佳境になる。
つまり、次の戦いが
恐らく最後の戦いになるだろう。
原作と違ってバニラは俺たちの味方だ。
だから、100%未来が変わるとは限らないが
確実に変わってきているものもある。
アドルフに対するバニラの強化もない。
前回、勝利して修行も怠っていない
俺があいつに負けるはずがない。
だけど、なぜか胸騒ぎがする。
とりとめのない不安が俺を襲っている。
姿を表さないあいつは
何をしているのだろうか?
「お兄さん?」
「あ、すまん。
ちょっと考え事をしていただけだ。」
「お兄さん、不安なんですか?」
「な、そんなことないぞ。」
急に鋭いことを聞いてくるバニラに驚くが
俺は寸前でごまかした。
「お兄さん、バニラに嘘ついても無駄です。」
「そんなことはないぞ。」
「バニラはお兄さんの
体を触るとなんとなく分かるんです。」
「バニラの旦那さんは浮気ができないな。」
バニラの設定にそんな力はなかったはずだ。
これも体質の副産物なのか?
「ふふ、そうですね。」
「バニラもそのうち離れていくのか…
そうなると俺、多分泣くな。」
「お兄さんから離れるつもりは
ないですから関係ないですよ。」
「妹の結婚式でお兄ちゃんは
泣きたいんだけどな~」
「なら、お兄さんと結婚します!
となりでエスコートお願いしますね。」
「俺にはアリアがいるからごめんな。」
「むー」プク
俺はむくれるバニラを宥める。
お兄ちゃんと結婚したいなんて
嬉しいことを言ってくれるぜ。
俺のかわいい妹は。
「ところでお兄さん。」
「なんだ?」
「バニラと寝ませんか?」
「いつも寝てるじゃないか」
どうせいつも寝ているんだ。
言わなくても変わらないだろう。
「いい方が悪かったですね。
私を抱いてください。お兄さん」
「バニラ…。
なにを言ってるのか分かっているのか?」
「分かっています。
お兄さんの不安を解消するために
私を抱いた方がいいんです。」
体の関係を進めてくるバニラ。
俺には理由が分かっている。
だからこそ、受け入れられない。
「お兄様と戦うのが不安なんですよね。」
「…ああ。」
バニラには嘘が通用しないんだ。
だから、正直に話すしかない。
「お兄さんは私の能力知ってますよね。」
「抱けば疲労を回復できて
力を得ることができるんだろ。」
「そうです。
だから、お兄さん。
私を抱いて力を得ませんか…」サッ
そう言いながら、俺の首を撫で始めるバニラ。
その手付きはすごく色っぽい。
「いいんですよ。お兄さんなら…
むしろ、あなたにしかもう抱かれたくない」
「ダメだ。バニラ
俺にはできない。」
「私が…穢れているからですか…
そうですよね…
汚れた私はお兄様に相応しくない。」ポロポロ
「そんなことはない!」
「なら、私のことを抱いてください!
私はお兄さんを死なせたくないんです。」
バニラは俺のために言ってくれる。
俺の不安を理解しているからこそ。
「バニラ…目を瞑ってくれ。」
「お兄さん…」
バニラは目を瞑る。
俺も腹をくくろう。
そのまま俺はバニラに顔を近づける。
「お兄さん…///」
チュッ
俺はバニラのおでこにキスをする。
「これで我慢してくれ。妹よ」
「ど、どうして。」
「お子さまにはこれで十分だ。」
「お兄さんは力が要らないんですか!?」
「ああ、必要ない。」
必要ないと言ったら嘘になるが
そこまでしてほしいものではない。
「私は…必要ない」フルフル
肩を震わせ始める。
必要ないという言葉で
自分が捨てられると思っているのだろう。
「俺にバニラは必要だ。
だけど、いてくれるだけでいいんだ。
バニラの体質が欲しいわけじゃない。」
「私が…いたって…」
「俺はバニラといるだけで幸せなんだ。
バニラは違うか?
俺の守って欲しいから一緒にいたいのか?」
「違う!私はお兄さんといるだけでいい!
例え、お兄さんに力がなくても…」
確かにバニラの体質で
力を手に入れるのは手っ取り早く強くなれる。
だけど、そんなことをしたら
あのくそ野郎と同じで
バニラを利用するだけになる。
俺はそれだけは絶対に許せない。
彼女には平和なところで
何にも縛られずに生きてほしい。
「バニラ。愛するのに条件なんてない。
俺はお前が好きだから愛してるんだ。
だから、体質のことなんて
俺のそばでは忘れてしまえ!!」
「おに…いさん!」ポロポロ
俺の言葉をきっかけにバニラは泣き始める。
ようやく、自分の居場所が出来たんだ。
今はこのままにしておこう。
アドルフ…
お前だけは許さない…
俺は絶対にお前をやってやる
バニラにしたことだけは絶対に許せない。
なんとしてでも…お前だけは俺の手で
ーーーーーーーーー
昨日、
予約を間違えて2本投稿してしまいましたが
毎日更新は変えないようにします。
ご迷惑をおかけいたしました。
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