第23話 贖罪

「レジスト様、お風呂に入りたいのですが」

「ああ、王女。

 女性用の浴場があるから

 マーガレットたちと入ってきていいぞ。」

あれから、数時間過ぎた。  

俺はバニラ王女を拒絶することを止めた。

これ以上は俺のメンタルを削るだけだからだ。

だから、普通の関係になることを選んだのだ。


「レジスト様と入りたいです…

 知らない人とは怖くて…」ウルウル


そう、普通の関係に…


「いや、その手はもう通じないぞ。

 あんた、それやれば

 俺が従うと思ってるだろ?」


「そ、そんなことありませんよ~。

 優しいレジスト様はちょっと涙目をすれば

 何でも言うことを聞いてくれるなんて

 少ししか思ってません。」


「少し思っているのかよ!

 俺は愛する妹がいるから少し甘いだけだ。」


そうだ。少し甘いだけだ。

別にめちゃくちゃ甘いわけではない。


「そうですか…

 直接、愛するとか言われますと

 なんだか照れてしまいますね///」

バニラ王女は顔を赤くしてもじもじしている。


「何で照れてるんだ?」


「妹って私のことですよね?

 目の前で愛してるなんて言われるなんて…

 もっと言ってください。レジスト様!」


「なに言ってんだお前?

 俺の妹はカレンとアリアだけだ。

 それにお前にはアドルフがいるだろ?」

王女様は色々ありすぎて

頭がおかしくなったらしい。


「お兄さまはお兄さまです。

 レジスト様もお兄さまです。」


「お前の兄はアドルフだけだ。

 あと、あいつと同じ言い方で

 俺を呼ぶな。一緒にされると不愉快だ。」

俺は全力で拒否する。

マジであいつと一緒だけはいやだ。


「私としてはお兄さま同士仲良くしてほしい

 のですがしょうがないですね。

 レジスト様のことは兄さんと呼びます!」

そういうとバニラ王女は仕方ないな

という風に首を振りながら納得する。


いや、なに妥協しましたよ感だしてるんだよ。


「俺はあいつのことが嫌いだからな。

 それに俺はお前の兄じゃない。

 だから、兄さんなんて呼ぶんじゃない!」


「むー」プクゥ

頬を膨らませて怒ってることをアピールする。


数時間経ったことで分かった。


この王女すごく強かだ。

最初に会ったときのしおらしい態度は

忘却の彼方に捨てたらしい。


恐らく、彼女の本質はこっちなのだろう。

泣いた振りや相手を弄って楽しむ。

小悪魔というやつだろう。


「二人も妹がいるなら、

 一人ぐらい増えてもいいじゃないですか!

 兄さん!!」


「兄さんって言うな。

 それに妹は勝手に増やすものではない。」


ん?なんだ。

何も俺はおかしいことは言っていないぞ。

アリア?

アリアは最初から俺の妹だろ!


「兄さんの頑固者!!

 だったら、考えがあります。」


「だから、俺はお前の兄さんじゃねぇ!

 何をしてもお前に従う義理はないぞ。」

俺はそう言って風呂の準備を

するために背を向ける。


お前の方が頑固だろうが


ダキ


「おい。」

「えへへ、兄さんの背中あったか~い」

バニラは俺の背中にしがみついた。

俺の背中に柔らかい感触があたる。


「バニラ王女。 

 とりあえず、離してくれないか?」

俺は冷静に指摘する。

変態フレイのせいで慣れてるから

これぐらいでは動揺しない。


しかし、バニラ王女の体温は温いな。

なんかぽかぽかするわ。


「いやで~す♪

 ん~!兄さんの背中は心地いいですね。

 私の寝床にしたいです。」


 バニラは俺の背中に頬擦りしながら言う。

 こいつの距離感おかしいだろ。


 「それと私のことは

  俺のかわいいバニラと呼んでください!」


「妹以外にそんな呼び方はしねぇよ。

 まあ、いちいち王女つけるのは

 めんどくさいからバニラって呼ぶわ。」


「むぅー。私も妹なのに」グリグリ

バニラは俺の背中に頭を押し付けてる。

たまに首に髪がかかってくすぐったい。


「諦めろ。

 それにお前には甘えられる兄がいるだろ」


「…」スゥ 

頭を押し付けるをやめ、

今度は背中に顔を埋めてしまう。


兄が恋しくなったのか?

だが、当分彼女を帝国に返す訳にはいかない。 

少し申し訳ないが我慢してもらおう。


「お兄さまとは…

 こんなことしたことないです。」

「随分冷めた関係なんだな。」


妹がいるのに可愛がらないとかありえない。

俺だったら、倒れるまで撫でまわす。

まあ、今でも妹たちにやっているけどな。


「冷めた関係ですか…

 私はお兄さまのことを敬愛していますし、

 お兄さまも私のことを愛していました。

 ですので、そんなことはありません…」

背中に顔を埋めながらポツリポツリと言う。



愛していますか

俺はスチールを思い出す。

この子が兄と結ばれ 

愛し合ってるシーンは結構多い。

本当は愛し合ってるのだろう。


俺には関係ないことだが


「それは悪かった。

 愛し方は人それぞれだもんな。

 俺は妹たちに愛を 

 言葉や行動で伝えてるから勘違いしてた。」 

流石に俺は素直に謝る。

価値観を押し付ける訳にはいかない。


「愛を…伝えるですか…」

何か思うことがあるのだろうか。

真剣な声で呟いている。


「ああ、

毎日抱き締めたり愛してるって言ってるな。

俺は妹たちを愛しているからな。」


「いいなぁ…」

「…」

俺は何も言わない。

彼女の愛され方と俺の愛し方には齟齬がある。

だから、彼女は自分とは違う愛され方をする

カレンたちを羨んでいるのだろう。


「レジスト様は妹様と体を重ねましたか?」

 

ああ…


その質問によって彼女と兄の  

愛し方というものが分かった。


「俺は妹とはするつもりはない。」


「どうしてですか? 

 愛してるのではないのですか?」 

自分の常識とずれているからか聞いてくる。


「愛するのは  

 体を重ねることだけじゃないってことだ。

 そんなことしなくても 

 俺らは愛し合っている。」

彼らの愛し方を否定はしない。

それも立派な愛の形だからな。

 

「私には…分かりません。

 私はそれ以外の愛し方が分かりません。」


「今、バニラが俺にしてるみたいに 

 抱きついたりすればいいんじゃないか。

 愛してるって言いながらさ。」

諭すように彼女に方法を伝える。

知らないことするって怖いもんな。


「無理です。お兄さまにとって

 抱けない私に価値なんてないですから…」


は?


「いや、そんなことないだろ。

 アドルフも

 バニラを愛してるから抱いたんだろ?」


冷や汗が止まらない

すごくいやな予感がする。


「私、特殊体質なんです。」


ピキ


「触った人間を強くすることができるんです」


ピキ


「だから、お兄様は

 そのために私を愛してくれたんです。

 私が存在する意味をくれたんです。

 おかげで、

 することもできました。」

彼女は誇らしげに言う。



ビキ


「な、なんだと」


彼女の体質に関しては思いだした。

普通は愛し合うことにより力を手にすることが

できるというのは

エロゲとしても理にかなっている。


なのに、あの糞やろう! 


バニラを…妹を

なんだと思っているんだ!!


バニラはドーピングのための道具じゃない!!


それに


軍を強くって


「バニラ…軍を強くって」

「沢山の男の人に私は抱かれました。

ごめんなさい。

こんな穢れた私に触られたくないですよね。

レジスト様が優しいから調子に乗りました。」

そう言って、彼女は俺に抱きつくのをやめる。

俺が勢いよく振り返ると


そこには笑顔の彼女がいた。


 

なんでだよ…


なんで笑っていられるんだよ!!


あの夢のような出来事を体験したんだろ

人としての尊厳を全て奪われたんだろ

生きているのも辛いほど絶望したんだろ


なのに…なんで?


それほど、兄のことを愛しているのか

それとも、とっくに…


ガシッ  


「お兄さん!?」

俺はバニラの両肩を掴みバニラを見据える。


「バニラ…お前大丈夫なのか?」

これ以上は耐えられない。

彼女を放っておくことなど俺には無理だ。


「お兄さん、私は大丈夫です。

だって、光が私を見守ってくれましたから。」


「光?」


なんのことだ?


「夢の中で私のことを見守ってくれたんです。 

 とても暖かい光で私を癒してくれました。

 だから、私は今も元気に生きてます。」


夢の中?


「でも、その光は 

 自分のことを怒っていたんですよ。

 私を助けられない無力な自分に…

 おかしいですよね。

 赤の他人の私のために自分を責めるなんて」

クスクスと楽しそうに彼女は笑う。


自分を責める


無力な自分



なんとなく分かってしまった。


その光は俺だ

夢を見ていた俺なんだ。

カレンが酷い目に

あっているのになにもできなかった、

見てみぬ振りをしていたクズな俺だ。

 

「優しいですよね。わたしなんかのために」

彼女は嬉しそうに言う。


違う。

俺は最低だ!

お前のことを見捨てていた。


「だから、もしあの光の持ち主にあったら

 言いたいです。

      ありがとうって!     」


ギュー

俺は彼女を力一杯抱き締めた。


「お兄さん?」 



「ごめんな…なにもできないでごめんな

 辛い思いをさせたな…許してくれ」

俺の罪を懺悔していく。

泣きはしない。

本当に辛いのはバニラの方だから


「お兄さん!なんでお兄さんが謝るんですか?

 大丈夫ですよ!

 お兄さんには関係ないことですから。」


「違う、違うんだ俺が…俺が助けられれば

 動いていればお前は 

 傷つかないで済んだんだ!

 見ているだけしか俺がしなかったから!!」


「お兄さん…」


こんなのただ自己満足だ。

なにも知らないバニラに謝る。

最低な自己満足だ。

だけど、謝らずには要られなかった。


「お兄さんは傲慢ですね。」

「え?」

「だって、そうですよ。

 助けることが絶対できないのに

 自分のせいだって自分を責めるんですもん

 なんでもできるヒーローとでも

 自分のこと思ってます?」


「そんなこと…」

確かに調子に乗ってたかもしれない。

本来、自分とカレンのことで手が一杯だった。

なのに、どんどん守ろうとする。

俺はなんでもできるヒーローではないのに…


「でも、

 私はお兄さんのそういうとこ好きですよ。」


「え?」


「守ろうとしてくれるだけでも 

 私は捕らわれのお姫様になった気分がして

 心がぽかぽかします。

 それに、これからは守ってくれるんですね?    

 私の英雄ヒーローさん♪」

笑顔で彼女は言ってくる。

その笑顔で俺は心が救われたような気がした。

彼女に許されたような気がした。


「すまなかった…バニラ。

 これからは俺が…守るから…

 お前のこと…絶対に守るから…

 何もかもから…守って見せるから…

 俺に…お前のことを助けさせてくれ!!」


「はい!

 よろしくお願いします。お兄さん。」



それからしばらくの間、

俺は時間の許す限り

   バニラのことを抱き続けるのであった。





ーーーーーーーーー

長くなりましたので今回はおまけはなしです。

楽しみにしていた方、

申し訳ございません!!



シリアスはお腹いっぱいだと思うので

次回から元に戻ります。

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