第21話 主人公の妹
「やめてください!!
お兄さまを殺さないで!!!」
夢で見たあの子が目の前にいる。
誰かに助けを求めつつも
世界に絶望していたあの子が…
「君は…」
「私はセイバー帝国の王女
バニラ・レイモンドです。
お兄さまと同じ王族の人間です。」
震えながら俺の目を見て言ってくる。
俺のことが怖いのだろう。
そりゃそうだ。
血まみれの人殺しなど怖いに決まっている。
「さっさとどけ…
でないとお前から先に切るぞ」
彼女とは確かに夢の中で会っている。
夢で彼女に同情した。
ただ、それだけだ。
現実ではなんの関わりもない。
むしろ、俺にとっては兄と同じで敵だ。
俺は敵には容赦はしない
「ひっ…」ブルブル
可哀想なくらい震えている。
しかし、俺から目をそらさないで立っている。
「死にたいのか?」
俺は彼女のことを威圧する。
そこまでして守りたいのか?
現実を見ないその男のことを…
「構いません!
お兄さまを守れるなら
私が身代わりになります!!」
俺に向かって啖呵を切った。
目に涙を貯めて震えているが
はっきりと
「私は位としては兄と同じです!
ですので、どうか私の命で
満足していただけませんでしょうか?
無能な私には
それくらいしかできないんです!!」
彼女は頭を下げた。
王族である彼女が
兄のために命乞いをしている…
それよりも
「無能?」
「…っ!
いえ、何でもございません。
私はお兄さまと同じくらいの人物なので
命を取るなら私にしてください!!」
無能と言ったことにより命を取る価値がなくなることを恐れてごまかしに入っている。
彼女には何かあるのだろう。
しかし、俺に話すことはなさそうだ。
俺としてはどちらも始末したい
だが、
ズキ
たすけて
頭が痛い。
夢の中の彼女の声が聞こえる。
俺には関係ない
俺には関係ない!
俺には関係ない!!!!!!!!
「あ、あの?」
俺からの返事がないのが不安なのか。
こちらの顔を覗き込むように心配してくる。
『お兄さま?』
その姿がカレンと被る。
「…っ!」シチャ
「!?」
思わず、俺は一歩距離を取り、
彼女の首もとに剣を持ってくる。
これ以上、彼女と話すのはキケンだ
「悪いな。お前には知るよしもないが、
俺はお前らを殺すために軍に入ったんだ。
だから、そんな条件は飲めない。
せめて、楽に逝かせてやる。」
「そ、そんな…」
この世の終わりのような表情をしている彼女。
やめろ!そんな顔をするな!!
『お兄さま…』
『お兄ちゃん…』
俺の脳裏に悲しげな表情をする妹たちがいる。
それでも!!俺は!!!
俺は手に力込める。
その瞬間、彼女が目を瞑った。
ザシュ!
「ば、馬鹿な」バタン
カチャン
俺は後ろに迫っていた敵の兵士を
切り伏せて剣を鞘の中にしまう。
「おい。」
「な、なんでしょうか…」
彼女は困惑しながら、返事をする。
一瞬の出来事についていけていないようだ。
「お前、命を捨ててもいいんだな?」
「え、え?」
俺の質問の意図が理解できてないようだ。
しょうがない。もう一度説明してやるか。
「お前は兄のためにに
命を捨ててもいいんだな?」
「はい!私の命でお兄様が助かるなら。」
「いいだろう。約束してやる。
今回はお前の兄には手をださない。」
「ありがとうございます。
このご恩はこの命でお返しします。
どうか、私の首をお切りください。」
そういって、彼女は
首を差し出してくる。
「お前には捕虜として
軍の基地に来てもらう。」
「…え?」
ごめんな…カレン
この兄弟を葬る最後のチャンスだったのに…
意志の弱い俺を許してくれ…
「何度も言わせるな。
お前は捕虜して捕らえる。
だから、ついていこい。」
俺は振り向くと
マーガレットの元まで歩きだす。
「は、はい。」
彼女はおぼつかない足取りでついてくる。
俺の殺気で足腰がやられたのだろう。
それでも俺に懸命についてきた。
…
…
…
マーガレットのところに行くまでの道中、
俺は一度も振り返らなかった。
しかし、彼女は逃げ出そうとはしなかった。
先ほどの戦いを見ていたから
逃げても無駄だと分かったのだろう。
道すがら、俺たちは注目される。
それはそうだろう。
一応、一騎当千で相手の大将を倒した化物と
相手国の王女様だ。
嫌でも目にはいるだろう。
「あいつ、ヤバかったやつだよな」
「そうそう、あの王子相手にボコってたやつ」
「ってことはあれ敵国の王女か。」
「今夜が楽しみだな…」
「まわしてやろうぜ!」
下卑た笑いをしながら
品のない会話をしているクズどもいる。
「う…うぅ…」
そんな無遠慮の視線にさらされて
彼女は縮こまってしまったようだ。
スッ
彼女の横に移動して
無遠慮な視線を彼女から遮る。
「あの…」
彼女が何か言おうとしたが無視する。
別に助けたわけではない。
泣かれて止まりたくなかっただけだ。
カツン
「あ!」
今度はよそ見をしていたのか、
足元の段差に足を取られてコケそうになる。
ガシ
「大丈夫か?」
「は、はい!
ありがとうございます…」
俺が間一髪のところで抱き止める。
危なっかしいなこの子。
パッ
「あ…」
一度、彼女を離して歩き始める。
ギュ
服が引っ張られてる感覚がする。
なんだ?
振り返ると
服を彼女に掴まれていた。
「どうした?」
「あ、あの…
手を繋いでもらってもいいですか?」
彼女は上目遣いで俺に確認をとってくる。
何を言ってるんだ?この子
「自分の立場がわかってるのか?」
「ここ…怖くて…」ポロポロ
震えている彼女は
目から涙が溢れさせている。
うっ…
その縋るような視線やめろよ。
確かに敵基地に15歳の少女が一人だもんな。
怖いよな…
って、絆されないぞ俺は!
「お願いしますぅ…」ポロポロ
サッ
無言で手を差し出す俺。
「あ、ありがとうございます!」
彼女は嬉しそうに俺の手を握った。
意思が弱いなぁ…俺…
…
そんなことをしているうちに
マーガレットのところにつく。
「マーガレット様。お話があります。」
「レジスト・ヴィレッジか。
この度の戦いよくやった。」
「ありがとうございます。」
なんか、久しぶりに
こいつと真面目な会話をするわ。
「それで、要件は後ろに王女についてか?」
そう言って、
彼女は鋭い目つきで王女を睨み付ける。
後ろでひぃと小さな叫び声が聞こえた。
俺が言えたことじゃねぇけど
女の子を泣かせるなよ…
「はい、そうです。」
「ここまで、連れてきたと言うことは
彼女を捕虜にするつもりか?」
流石、いつもは
頭の回転が早い上官だ。
すぐに事態を把握してくれる。
しかし、少しだけ違う。
「少し違います。
彼女を来客として
受け入れてくれませんか?」
「え?」
後ろから声が聞こえるが
無視して会話に集中する。
「来客だと…
本気で言っているのか?」
「はい、王女には俺から私用で誘って、
自分の意志でここに来てもらいました。」
「いや、絶対嘘だろ。」
「彼女に聞いてみますか?いいですよ。」
俺が聞いてみろよと言葉外で挑発すると
マーガレットは王女を見る。
「はい、私はこのお方に
誘われてここまで参りました。」
「…っ!
それでもだな!
流石に敵国の王女を来客とはーー」
「そうですか。来客扱いは無理ですか。
そうなりますと俺は彼女を国に
送り返さないといけなくなりますね。」
「本気…なのか?」
マーガレットは真剣な目つきでこっちを見る。
その言葉を聞き、
俺は
顔を耳元に近づける。
これでトドメだ。
「本気に決まってんだろが!雌犬」
こいつにはこれが一番効くはず。
案の定、
「ヒィィン…イイ///
わかった。
そう言うことで処理しておこう。
皆には私から伝達しとく。」
「ありがとうございます。」
俺の何かを失った気がするが気のせいだろ。
「部屋はフレイ指南かマーガレット様と
一緒にしてもらいたいのですが?」
「私たちは問題ないが王女様はどうだ?」
マーガレットが王女聞く。
「ええと…」
すると王女は
俺とマーガレットの顔を交互に見る。
「わ、私は」
そして、俺の方を指を差し口を開いた。
「このお方と一緒の部屋がいいです!!」
「「え?」」
この時の俺とマーガレットの顔は
さぞかし間抜けだっただろう。
ーーーーーーーーー
おまけ
イヤイヤ期(レジスト8歳)
「カレン、パパだよぉ」
「やぁ!」
ハグをしようとして全力で拒否られる強面親父。
可哀想と思うか、ざまぁみろと思うか悩む
「グスン、ままぁ」
「あらあら。おっきい子供ですねぇ」
うん、
ざまぁみろだわ。
むしろ、得してるじゃねぇか。
ちなみに俺は今カレンに抱きつかれている。
「カレン、お兄ちゃんー」
「や!!」
全力で拒否される。
最後まで言ってないのに…
「修行にな」
「や!!」
「カレン」
「や!!」
どうやら、イヤイヤ期というやつ
かもしれない。
お兄ちゃんとしてはカレンの成長が嬉しいけど
今はカレンのために修行に行きたいのだが…
「カレン…どうしたんだ?」
「や!!」
「や!!じゃお兄ちゃん分からないな~
カレン教えてくれないか。」
「おにぃさま、いっちゃいや…
かれんとあそんで?」
ズキュン
イヤイヤ期ってなんだよ。
甘えん坊期の間違いじゃないか!!
一生養いたいこの生き物!
「カレン、修行が終わったら
めいいっぱい遊んでやるから
それまで待っててくれないか?」
「ううぅ…」
少し目に涙を貯めている。
どうやら、すごい葛藤してるらしい。
「じゃあ、約束しよう」
「やくそく?」
「そう、嘘ついたら
一生カレンと遊ぶって約束」
子供っぽいがいいだろう
俺もなんだかんだ子供だ。
「うん!おにぃさまと約束する!!」
そう言って俺たちは小指を結ぶのであった。
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