第二章 支配者の百足

 ハイアッフルの記録 其ノ二


異世界に転生し、四度目の夜。



 北へ北へ、山を越え、川を越え、平原を歩き、ようやく私達は少女の生まれた村へと到着した。

 村は幾つかの木造の小屋が並び、その外部を膝程度の高さの柵が囲っている。獣の侵入を防ぐというよりは、境界線を視覚的に示しているようだ。 

 雰囲気としては中世の欧州の集落と言ったところか。


 少女が村長を呼んでくる間、私は遠目から村の造りや周囲の自然を見て回る。ちらほらと雪が残っており、遥か遠方の山々は雪で真っ白。

 転生時に身に着けていたコートを着ても寒い。

 身体を動かして温めてるいると、戻ってきた少女から村に入る許可を頂いたので、私は少女と共に村長の家へと向う。


 村の内部は静まり返っており、人の気配を殆ど感じられない。ただ、それは私が来たからだと少女は言っており、確かに小屋の窓や扉の隙間からは私の事を不安気に見つめるエルフが見られた。

 

 村の中央部にある小屋の前では、村長と思われるエルフが私を歓迎する。儚げな高山の花の様な印象の女性だ。

 ノールと名乗る村長のエルフの小屋に案内される。

 私も名乗ると、彼女から転生者は姓名のどちらかを名乗る決まりと教えられる。


※以後私はハイアッフルと名乗る。


 この時、私を道案内してくれた少女が村長の娘であると知らされた。

 名前はニアリと言う。


 私はまず初めに驚愕の事実をノールから聞かされることになる。

 転生者は手始めに王国へ行き、儀式を済ませねば役職の成長とスキルの獲得ができない。

 制限時間は二十四時間以内。

 当然、私はとっくに過ぎている。

 だが、私は別に落胆はしなかった。

 そも異世界を選んだのは、私が異世界由来の風土に興味があっただけだ。

 強さなど不要、進む足さえあれば問題無いのだ。


 そんな私の反応にノールの方が驚いていた。

 大抵の場合、転生者はスキルを覚え、武器を手にして冒険をするというが、戦いに無縁な生前を送った私には出来ぬ行為だ。


 その後、私はノールに思いつくばかりの質問をした。

 以下にノールのからの答えを纏める。


・問、この世界にはどんな種族が住んでいるのか?

→答、人間とダビル、ヴァンパイア、エルフ、ドワーフ、フェアリー、ウェアニマ、サキュバス、オーク、ゴブリンの九種である魔族。

・問、魔族と人間の関係はどうなのか?

→答、不良。互いに相容れず、長き戦火が続いている。

・問、転生者の立ち位置はどうなのか?

→答、人間寄り。ただし一部魔族に味方する者もいる。

・問、人間や魔族の統治する国はあるのか?

→答、人の統治する王国と帝国が存在する。魔族は国という集合体は持たず、部族単位や領主単位での集合体を形成している。

・問、魔族同士で協力しないのか?

→答、魔族は互いに排他的で魔族同士でも争う。

・問、魔族の王は存在しないのか?

→答、いない。しかし、最近自らを『魔王』と名乗り、各地で魔族の結束を呼びかける謎の存在がいる。


 私は更に質問を続けたかったが、ノールは用事があるらしく今日はこれで打ち止めとなる。

 去り際にノールは私のクラスを尋ねたが、私が知らない事を告げると彼女は驚きつつ、魔術を用いて見てくれた。

 以下に私のクラス・スキル、能力値を纏める。


名前 ハイアッフル

役職『観光客ツーリスト

 旅を楽しむことを至上とする特殊な役職。

 とある世界では伝統的な役職で予想を裏切らないほど軟弱です。

能力値 筋力:E 耐久:E 

    俊敏:C 魔力:E

<所持スキル>

『〝旅歩き〟』

 歩くことに長けたスキル。

 幾ら歩いても疲労することは無い。



 以上が、異世界に転生した私の能力値。

 ふむ……すでに成長すらできない、となると。

 これは――想像以上に大変な旅になりそうだ。

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