第10話 山に行く、そして聞き込みをする

 ──翌日、改めて早朝の走り込みルーティンを終わらせてから、日が登り始めた時点で登山を開始した。


 と言っても、登山道も整備されているし、スニーカーで登っても一時間もせずに登頂できるサイズだった。


「ここが噂のため池ねぇ……」


 割と普通のため池かと思っていたのだが、ちょっとしたダムじゃん。

 五千人分の生活用水に観光客の使う水を貯めるからこれくらいいるのか。

 やけに仰々しい高さのある柵で覆われてるし、展望台って感じでもないな。


 さて、本題はため池ではない。

 山頂の広場の看板を写真に撮って、記載されている文字を読んでみるが、ネットにある文献と近いものだった。

 巫女の呪いの部分以外は……。


「巫女が掛けた呪いは、可能な限りこの島を存続できなくするために、女性が生きにくい環境にすることであった。

数か月ため池の水を飲むと不妊になる。

ため池の水を飲むと体調を崩すなど、様々な症状が現れはじめ、島から女性がどんどん出て行ってしまい男性しか残らない島になったのです。

また、このため池は身投げの名所として年に数件身投げ事件がありました」


 島ではそれが真実だと伝わっているのか……。

 ──女性が長期間生活できない島。

 それが真実だとすれば、男性ばかり見かけることも納得はできるが、これだけでは根拠としてたるものではないな。


「にしても、ここをわざわざ勧めてくるって、あの店長一体何を考えているんだ……」



 その後、日中は漁港の方に聞き込みに行くため、一旦自分の部屋に戻って変装道具を取りに行く。

 今日はいつもの派手なダボTとジーパンスタイルではなく、アースカラーのロングTシャツにキルティングのコート、同系色のチノパンを合わせて、赤い眼鏡とキャスケット、化粧道具を鞄に詰め込んで散歩に出かける。


 そして、鞄とカメラを首にかけてあたかも山に行くよって格好で、先日の人の少ない公園へ歩を進める。


 公園に付属している物置小屋の裏で着替えを済ませて、小屋の中に服を詰め込んで、メイクを終わらせた。

 よくわからんが俺はブルベらしいので、それに合わせた道具をデパートで買って常備している。

 男性として乗り込んで女性として捜査する。

 これが俺の強みの一つだ。

 ショタ顔でよかった……のか?


 さて、朝市のフェリーが到着したのを見届けてから、朝の競りが終わって朝市の始まった漁港へ向かう。

 漁港の人にカフェの話とそこにいる店員が格好良くて、ちょっと粉をかけてみようと思っているといった話を振ってみる。


「あ~、カフェの幾谷さんね。最近来たあのバイトの……柏木だったかな。

彼と出来てるみたいだから多分告白しても無駄だと思うな」

「イケメン同士のカップルでカフェ経営ですか……珍しいですね」

「前の彼氏が独立して釣具屋になったから、新しい彼氏欲しかったんじゃないかな」


 まぁ、関東圏でもないわけではないが、それを押し出していないお店では珍しい部類だろう。

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