第8話 そういえばカフェでご飯食べてないな
早朝四時、ボクはクーラーボックスにタブレットと朝食のパンを入れ、日も登らないうちにペンションを出た。
別に昼でもいいのだが、俺は釣り人の設定だ。
朝マズメを逃すのは不自然すぎるのだ。
昨日夕飯もとらずに寝たのは、早朝から釣りに行くためだとの言い訳もできるし、実は割といい感じの行動だったのだ。
うん、きっとそうだ。
港方面に向かって歩き出し、海の見える適当な公園を見つけたのでパンをかじりながらタブレットで報告書を書き始めた。
と言ってもまだ手に入った証拠は、柏木と幾谷が恋人関係または、セックスフレンドな関係である可能性についてだけにとどめた。
その後、日課の筋トレとストレッチを行ってから、港まで数往復走り込みをしてから宿に戻った。
「おや、御幸さん。お早いですね。釣りですか?」
幾谷だ。
彼も失踪事件にかかわっているということがほぼ確定しているのだ。
当たり障りのない会話をしながら部屋に帰ろう。
「えぇ、朝マズメを狙って釣りに行ったんですが、ボウズでしたね。
夕方は港とは反対側のポイントを狙ってみる予定ですよ」
「そうでしたか。でしたら、灯台の近くを狙ってみてください。
あの辺りは釣り人に人気のスポットらしいですよ」
「それはご丁寧にどうも。次はそこを狙ってみますよ」
「夕方以降でしたら、サビキよりは餌木を使ったイカ釣りも出来るみたいですね」
「餌木は持ってきてないですね。何処かで買えますか?」
「はい、港付近の釣り道具屋で買えますよ。生餌もコマセも……」
そんな会話をしながら自室に帰って、シャワーで体を温める。
彼が変な微笑みを見せた気がするが、思い過ごしかもしれない。
それから昼までは、写楽たちからの報告書などを読んでいた。
島の事件以外にも、向こうで手詰まりになりそうになっている事件の方針を指示したり、適当な担当者に連携を促すためだ。
さて、昼飯に行こう。
カフェの割引券を使うために、いや、柏木と幾谷が店でどんな様子なのかを観察するためにも、そのスペースで過ごす必要があったからだ。
「いらっしゃいませー。あ、御幸さんどうぞ奥の席へ」
「こんにちは。このお食事券って昼でもOKですか?」
「はい、一枚で八百円で同時使用は二枚まで、お料理の組み合わせ自由です。それを超える場合は、都度手出しでお願いします。
お昼釣りに行かれる方は、夜に二枚使ってちょっと豪勢なご飯にするという方もいらっしゃいますよ」
「へぇ、夕方はまたちょっと出るから、逆に豪勢にお昼を食べようかな、釣りに行くからなんだかんだ余りそうなんですよ」
「余った分は宿代から引くこともできますよ」
「それはありがたいですね」
そして、クラブハウスサンドとコーヒー、デザートにチョコケーキを頼んだ。
ランチセットのコーヒーはセルフサービスでコーヒーサーバーから注いできていいシステムだそうだ。
カフェでコーヒーがセルフなのはどうかと思ったが、高いコーヒーは都度淹れてくれるので、あくまでもランチセットだけのようだ。
…………
……
ふぅ、ランチセットにセットコーヒー、ケーキセットを食べながらカフェでのようすを探りつつ、事務所メンバーの受けた仕事の報告書の返信を終えた。
「さて、コーヒーお替りするか」
何時間でも飲んで粘っていいのは客の少ない時間の特権だな。
「あ、すみませーん店員さん。コーヒーのお替り切れてるみたいです」
「はい、すぐ行きます」
幾谷が新しいコーヒーを持って厨房から現れた。
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